熱中症対策はまだ一部?姫路の特定社労士が伝える、後手に回らない中小企業の考え方

大林組が建設現場の作業時間を朝7時から午後1時に変更し、JR西日本が駅員・乗務員約1万5000人に通気性の高いポロシャツを試行導入する。この夏、大企業の熱中症対策が相次いでニュースになっています。

「体力のある大企業だからできることだ」「うちのような中小企業には関係ない」——そう感じた経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし私は、姫路で中小企業の労務支援をしている立場から、少し違う見方をしています。実はこれらの対策は、まだ「ごく一部」の企業が動き始めた段階に過ぎません。そして2025年6月には、熱中症対策の一部がすでに企業規模を問わず法律上の義務になっています。この記事では、その中身と、中小企業が今日からできる対策を整理します。


目次

  1. 大企業のニュースが示す「本当の意味」
  2. 2025年6月施行、労働安全衛生規則改正の中身
  3. 「まだ一部」の今だからこそ考えるべき理由
  4. 中小企業が今日からできる、お金をかけない対策
  5. よくある質問

大企業のニュースが示す「本当の意味」

大林組は7〜8月の建設現場の作業時間を、通常の午前8時〜午後5時から、午前7時〜午後1時に前倒ししました。JR西日本は5月から現場作業員向けに熱中症情報を共有するアプリを提供し、9月以降は駅員・乗務員の制服に通気性の高い半袖ポロシャツを試行導入します。西武鉄道は山岳エリアの休憩所にエアコン付きキャンピングカーを活用し、松屋銀座の屋上ビアガーデンでは体温上昇を可視化する「示温シール」を試験導入しています。

帝国データバンクが2026年7月に実施した調査では、酷暑日・猛暑日に業務へ「支障が出た」と答えた企業が全体の50.0%にのぼりました(時事通信2026年8月14日配信記事より)。半数の企業がすでに影響を受けているという事実は、決して他人事ではありません。

姫路も例外ではありません。最高気温40度に迫る日が続く中、現場で働く社員が「暑くてしんどい」と感じているのに、経営者だけがそれに気づいていない、という状況は珍しくないのです。


2025年6月施行、労働安全衛生規則改正の中身

意外と知られていませんが、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、熱中症対策の一部はすでに全企業の義務になっています。対象となるのは、WBGT(暑さ指数)28度、または気温31度以上の場所で、継続して1時間を超える、あるいは1日4時間を超えて行われる作業です。

事業者に義務付けられているのは、次の2点です。

  • 熱中症の自覚症状がある人、またはそのおそれがある人を見つけた際の報告体制をあらかじめ定め、作業者に周知すること
  • 症状の悪化を防ぐための対応手順(作業からの離脱、身体の冷却、医師の受診、緊急連絡網など)をあらかじめ定め、作業者に周知すること

これは大林組の朝型シフトや、JR西日本のポロシャツのような設備投資の話ではありません。ルールを決めて、紙に書いて、共有するだけの、お金のかからない対策です。それにもかかわらず対応していない場合、労働安全衛生法第22条・第27条の義務違反として、同法第119条に基づき6か月以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金の対象になり得ます(同法第122条の両罰規定により、法人にも罰金が科される場合があります)。


「まだ一部」の今だからこそ考えるべき理由

マーケティングの世界には「イノベーター理論」という考え方があります。新しい取り組みを受け入れる速さで、企業や人を5段階に分ける理論で、最初に動く「イノベーター」が2.5%、続く「アーリーアダプター」が13.5%、ここまでで普及率はおよそ16%です。その後に「アーリーマジョリティ」34%、「レイトマジョリティ」34%、最後に動く「ラガード」16%と続きます。

大林組やJR西日本の取り組みは、まだ「イノベーター」か「アーリーアダプター」の段階だと私は見ています。つまり、世の中の大半の会社はまだ動いていません。「みんながやってから」と過半数を超えるのを待つ経営者は多いのですが、その頃には、求職者にも在職中の社員にも、対応の「遅さ」を見透かされてしまいます。普及率16%の壁を超える前、まだ一部の今だからこそ、「なぜ、あの会社は動いたのか」「当社にも当てはまるか」を考える価値があります。

これは熱中症対策に限った話ではありません。生成AIの活用でも同じことが起きています。「みんなが使い始めてから」と様子見をしている間に、一部の会社はすでに現場で使いこなし、成果を出し始めています。研修を受けただけで満足し、1か月後には何も変わっていない会社を、私は数多く見てきました。多数派になるのを待つ姿勢は、どの分野でも「なぜ」を手放してしまう姿勢と同じです。


中小企業が今日からできる、お金をかけない対策

法律が求めているのは、次のような「決めて、共有する」だけの対策です。

  • 具合が悪そうな人を見つけたら「誰に」「どう」連絡するかを決めて共有する
  • 症状が悪化したときの対応手順(作業の中断・冷却・受診・救急要請の判断基準)をあらかじめ決めておく
  • 気温やWBGTが高い日の休憩の取り方、声のかけ方を事前にルール化する

私がいつもお伝えしているのは、こうした制度(ハード)と、現場で「しんどい」と遠慮なく言える空気(ソフト)は、両方そろって初めて機能するということです。どれだけ立派な手順書を作っても、従業員が我慢して言い出せない職場では意味がありません。


よくある質問

Q. 熱中症対策を怠ると、具体的にどんな罰則がありますか?

A. 労働安全衛生法第22条・第27条に基づく義務(報告体制・対応手順の整備と周知)を怠った場合、同法第119条により6か月以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金の対象となり得ます。第122条の両罰規定により、事業者本人だけでなく法人にも罰金が科される場合があります。

Q. 対象になるのは屋外作業だけですか?

A. いいえ。WBGT28度、または気温31度以上の場所で、継続1時間超、または1日4時間超の作業が見込まれる場合が対象です。屋内であっても、工場や厨房など高温になる作業場は対象になり得ます。


まとめ

熱中症対策は、大企業だけの特別な取り組みではありません。2025年6月の法改正によって、報告体制と対応手順の整備は、企業規模を問わずすでに義務になっています。そして、それはお金をかけずに今日から始められることばかりです。

「みんながやってから」では、いつも一番遅い会社になってしまいます。まだ一部の今だからこそ、自社の現場に当てはめて考えてみませんか。就業規則や労務管理の仕組みづくりに不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年8月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。