私はこれまでに、助成金の申請を200件以上(はっきり分からないが、2023年時点で累計1億円は超えていた)を手がけてきた。補助金も累計6億円弱。数字だけ見れば「助成金・補助金のプロ」と呼ばれても仕方ない実績だと思う。
だからこそ、はっきり言える。
助成金・補助金で儲けようとしている経営者は、必ずどこかでしっぺ返しを食らう。
きれいごとを言うなと思われるかもしれない。でもこれは、ネットで拾った話でも、誰かから聞いた話でもない。すべて私自身の実体験から来ている話だ。リアルな現場の話として聞いてほしい。
これは感情論じゃない。200件以上の現場を見てきた人間の、純粋な事実認識だ。今日はその話を、包み隠さず書く。
目次
目次
- 助成金・補助金は「手段」であって「目的」じゃない
- 私が「助成金中毒」と呼ぶ経営者たち
- 日本一有名な助成金、キャリアアップ助成金の実態
- 不正受給は「悪意」がなくても起きる
- 正しい順番は「やりたいことが先」
- まとめ:助成金は麻薬じゃなく、道具だ
助成金・補助金は「手段」であって「目的」じゃない
助成金や補助金の相談を受けていて、最初に感じる違和感がある。
「うちは何かもらえる助成金がありますか?」
この質問そのものが、すでにズレている。
正しい問いは「私はこういうことをやりたい。そのための資金を補助してくれる制度はあるか?」のはずだ。ところが多くの場合、先に助成金ありきで話が始まる。「これでいくらもらえますか?」という発想が最初に来る。
これが根本的な問題だ。
助成金・補助金は、経営者がやりたいことを実現するためのお金を、国や自治体がサポートする仕組みだ。目的があって、その実現コストを下げるために使うもの。目的そのものになってはいけない。
たとえば「従業員の賃金を上げたい」「働き方を改善したい」「設備を入れて生産性を高めたい」。そういう先にある「やりたいこと」が出発点でなければ、制度を正しく活用することはできない。
私が「助成金中毒」と呼ぶ経営者たち
200件以上の現場を経験して、ある種の経営者パターンが見えてきた。私は彼らを「助成金中毒」と呼んでいる。
特徴はこうだ。
- 助成金の情報を常にチェックして、使えそうなものを探している
- 「次は何の助成金が使えますか?」と定期的に連絡が来る
- 助成金のために会社の制度や雇用形態を変えようとする
- 申請が通ることに快感を覚えている
- 補助金採択のたびに「勝った」と感じている
有難いことに、当社の現顧問先にはそういう人はいない。ただ、過去に関わった経営者や、同業の社労士から聞く話の中には、こうしたケースが少なくない。
一見すると「情報感度が高い経営者」に見える。でも実態は違う。
助成金のために経営判断をしている。助成金があるから採用する、助成金があるから設備を入れる。その順序が完全に逆転している。
本来は「採用したいから助成金を活用する」「設備を入れたいから補助金を使う」が正しい順番だ。助成金が消えたとたん、何も動かなくなる経営者がいる。これが中毒の本質だ。
そして中毒の先には、もっと深刻なリスクが待っている。
日本一有名な助成金、キャリアアップ助成金の実態
おそらく日本で最も知名度の高い助成金は、「キャリアアップ助成金 正社員化コース」だろう。非正規社員を正社員に転換した企業に、1人あたり数十万円が支給される制度だ。
ところがこの助成金、「キャリアアップにつながっていないケース」が後を絶たない。
私が実際に見聞きしてきた事例を挙げると、
- 最初から正社員として採用するつもりだったのに、助成金のために6ヶ月だけ契約社員として雇用する
- 本人が知らないまま「契約社員→正社員」の書類が作られ、会社が助成金を受け取っている
- 実態は何も変わっていないのに、書類上だけで転換を演出する
こうなってくると、助成金制度の趣旨を完全に踏みにじっている。「キャリアアップ」という名称がついているのに、本人の働き方や処遇が何も変わっていない。
制度の名前を借りた資金調達に過ぎない。これが「助成金中毒」が行き着く先のひとつだ。
不正受給は「悪意」がなくても起きる
不正受給で捕まる事業者は、決して「最初からだまそう」と思っていたケースだけではない。
「そういうものだと思っていた」「社労士に任せていたから詳しくわからなかった」「書類の意味を理解していなかった」。こういう経営者が、気づかないうちに不正の当事者になっていることがある。
特に危ないのが、助成金申請を外部に丸投げしているケースだ。「先生に全部お任せしています」では、会社が加害者になるリスクを自分でコントロールできない。
不正受給が発覚すると、返還だけでは済まない。加算金がつくし、場合によっては事業者名が公表される。中小企業にとって、信用を失うことは事業継続の危機に直結する。
この点については、私の電子書籍「助成金 社労士が経験したリアルな不支給事例7+11」に詳しく書いている。発売から5年以上経った今も、私が書いた本の中で一番売れ続けている一冊だ。助成金を検討している経営者には、ぜひ一度読んでほしい。
正しい順番は「やりたいことが先」
では、どう考えるべきか。シンプルだ。
やりたいことが先にあって、それを実現するための資金繰りを楽にするために助成金・補助金を活用する。この順番を絶対に崩してはいけない。
たとえばキャリアアップ助成金なら、「非正規社員を正社員にしたい」「そうすることで従業員の生活を安定させ、定着率を上げたい」という経営者の意思が先にある。その実現コストを助成金で軽減する。これが正しい使い方だ。
助成金があるから正社員にする、ではない。
この違いは一見小さいようで、実は本質的だ。「従業員の賃金が増える」「働き方が良くなる」という目的から考えれば、助成金を受け取ることは結果であって出発点ではない。
そして、目的が明確な経営者ほど、申請書類にも説得力が出る。審査官に「なぜこの取組みをするのか」が伝わる。結果として申請も通りやすくなる。本末転倒ではなく、本末が整っているから強い。
よくある質問
Q. 助成金申請に詳しい社労士を探せばいいですか?
A. 申請件数や実績は参考になりますが、それだけで選ぶのは危険です。大事なのは「あなたの会社が何をしたいのか」を先に整理してくれる社労士かどうかです。助成金の話を先に持ち出してくる専門家には注意が必要です。
Q. 補助金採択率を上げるコツはありますか?
A. 経営上の目的が明確で、その実現手段として補助金を位置づけているかどうかが鍵です。「補助金を取るための事業計画」は審査員に見透かされます。「この事業をやりたいから補助金が必要」という事業計画が通る。順番が全てです。
まとめ:助成金は麻薬じゃなく、道具だ
助成金や補助金は、使い方次第で会社の成長を後押しする強力な道具になります。私はそれを信じているから、200件以上の申請に関わってきました。
ただし、道具は道具として使わなければいけません。道具に使われてはいけない。
助成金のために雇用形態を変える。助成金のために制度を作る。助成金がなくなったら何もしない。これが「中毒」の症状です。
経営者として一番大事なのは、「自分の会社をどうしたいか」という意思です。その意思が先にあれば、助成金・補助金は強い味方になります。意思がないまま助成金を追いかけても、労力と時間を使い果たすだけで、会社は何も強くなりません。
ひとつ正直に書いておきます。当社では、助成金も補助金も、顧問先様への支援のみを行っています。単発の申請代行は受け付けていません。顧問契約を通じて会社の実態を把握しているからこそ、正しい申請支援ができると考えているからです。
また、助成金も補助金もすべてに精通しているわけではありません。得意でないものは、専門の社労士や中小企業診断士など、他の専門家に依頼することもあります。「何でもできます」と言う専門家より、そのほうが誠実だと思っています。
助成金・補助金の正しい活用について、当社に気軽にご相談ください。あなたの会社の「やりたいこと」から一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)|姫路の社会保険労務士
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年6月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
姫路を拠点に、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する伴走支援を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
姫路の経営者様はもちろん、遠方の方もオンライン対応可能ですので、お気軽にご相談ください。
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