2026年5月14日、少し気になるニュースが出ました。
大阪府警が、警察署地域課の男性警部(53歳)を懲戒処分にしました。
理由は「飲み会への参加を部下に強制した」こと。
この警部は2023年から2025年にかけて、当直明けの20〜30代の部下5人を月1〜2回の飲み会に誘い続けていた。断ると不機嫌になり、「なぜ来られないのか」と理由を問い詰める。その結果、部下たちは「断れない状況」に追い込まれていた。さらに飲み会の席で、部下の耳をつねったり、脇腹を拳で殴ったりもしていた。
本人の弁解はこうです。
「嫌がっているとは、思ってもいなかった」「かわいがりのつもりだった」
この話、「警察だからうちは関係ない」と思ったら、それは違います。
この構図は、姫路の中小企業の現場でも日常的に起きています。
目次
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「認識のズレ」が一番危ない
パワハラが深刻なのは、「悪意がある人間がやるもの」というイメージと現実がかけ離れているからです。
多くのケースで、加害者は「良かれと思っていた」のです。
- 「食事を一緒にすることでチームワークが高まる」
- 「コミュニケーションをとっているだけ」
- 「自分が若い頃はこれが普通だった」
この感覚は、特に40〜50代のマネージャーに多い。
ただ、時代はすでに変わっています。
厚生労働省が定めるパワーハラスメントの定義には、「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境を害すること」とあります。
飲み会への強制参加は、その典型のひとつです。
断ったときに不機嫌になる、理由を問い詰める。これだけで、「断れない状況」が成立します。身体的な接触がなくても、です。
「飲みニケーション」という言葉の危うさ
仕事の後に一緒に飲む文化が悪いわけではありません。
問題は「強制」と「任意」の境界線です。
上司と部下の関係においては、部下は基本的に「断りにくい」立場にあります。これは個人の問題ではなく、構造の問題です。
「誘ったら来てくれた」=「嫌がっていない」にはなりません。来ざるを得なかっただけかもしれません。
今回の大阪府警のケースも、被害を受けた部下が「行きたくない会合に参加させられている」と、別の上司にこっそり申告してようやく発覚しました。直接言えなかったということです。
中小企業で同じことが起きても、「相談できる別の上司」がいないケースは珍しくありません。そうなると、泣き寝入りか、突然の退職しか出口がなくなります。
経営者として、何をすればいいか
① 就業規則・ハラスメント防止規程の整備
パワーハラスメント防止措置は、2022年から中小企業にも義務化されています。
就業規則にハラスメントの定義と禁止事項が明記されているか、懲戒規定と連動しているかを確認してください。
「規程はある」だけでは不十分で、「何がアウトか」を具体例で示すことが重要です。
② 相談窓口は「使われる」設計にする
相談窓口があっても、使われなければ意味がありません。
手段を限定しないことが重要です。口頭やメールはもちろん、LINEやChatworkといった普段から使い慣れたツールでも相談できるようにする。
また、社内だけでなく、外部の相談窓口(社労士や外部機関)を用意することもセットで検討してください。直属の上司や会社に知られることへの不安がある社員にとって、外部の窓口は非常に重要な受け皿になります。
③ 研修は「全員に」「層別に」実施する
ハラスメント研修は、「管理職だけやればいい」と思われがちです。でも、それでは足りません。
経営者・役員層、管理職層、一般社員層、それぞれに分けて、内容とレベルを変えて実施することが重要です。
【経営者・役員層向け】
経営者が知るべきは「リスクの大きさ」です。過去の裁判例では、精神的苦痛に対する慰謝料として100万〜300万円、長期療養や後遺症が残るケースでは1,000万円を超える損害賠償が認められた事例もあります。さらに会社名がニュースになれば、採用への影響も計り知れません。
【管理職層向け】
管理職に必要なのは、ハラスメントの知識だけではありません。むしろ大事なのは「対話の技術」です。指示の出し方、フィードバックの仕方、部下が本音を言える雰囲気の作り方。ハラスメント研修単体ではなく、1on1の実践と組み合わせて実施することを強くお勧めします。
【一般社員層向け】
「自分がハラスメントをしない」だけでなく、「ハラスメントに気づいたときどうするか」「自分が辛いと感じたときどう動くか」を伝えることが大切です。ロールプレイや事例ディスカッションを取り入れると、「自分ごと」として落とし込みやすくなります。
④ 定期的な1on1・匿名アンケート
部下が「安心して本音を言える場」を、意図的に設計することです。
面談の場があれば、不満や困りごとが「外部への申告」「突然の退職」になる前にキャッチできます。
「嫌がっていないと思った」は、これから通用しない
今回の事件で処分された警部は、悪意がある人間だったわけではないと思います。
ただ、「相手の気持ちを確認しなかった」ことが問題でした。
好意や親しみのつもりの行動が、相手にとっては苦痛になっていた。その認識のズレが、懲戒処分という結果につながりました。
姫路の中小企業の経営者やリーダーも、同じリスクを抱えています。
「うちはアットホームな職場だから大丈夫」という感覚ほど、怖いものはありません。
仲が良いほど、「断れない」空気が生まれやすいからです。
よくある質問
Q. ハラスメント防止規程は、就業規則とは別に作るものですか?
A. どちらでも構いません。就業規則の中にハラスメントに関する条項を設ける方法と、別規程として「ハラスメント防止規程」を作成する方法があります。社員数が少ない場合は就業規則に組み込む形でも十分です。重要なのは、具体的な禁止事項・相談窓口・懲戒処分の手続きが明記されていることです。
Q. 部下が「大丈夫です」と言っているのに、本当に問題になりますか?
A. なります。「大丈夫です」と言わざるを得ない状況が問題の本質です。本人が「大丈夫」と言っているからといって、会社側の責任がなくなるわけではありません。定期的な面談や匿名アンケートで、「本音を言える場」を構造的に用意することが重要です。
まとめ
ハラスメントを防ぐのは、就業規則や研修だけではありません。
「社員が本音を言えるか」という対話の土壌が、最大の防波堤です。
仕組みを整えることと、日常の対話を丁寧にすること。
この両方が揃って、はじめてハラスメントのない職場ができます。
「嫌がっていると思わなかった」という言葉が出ないように、姫路の自社の職場を今一度見直してみてください。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年5月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
*姫路播州採用定着研究所
*C&P社労士法人 公式サイト
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