休日を増やすと割増賃金が上がる?知らないと損する労働日数と賃金の関係



「採用のために、休日を増やしたい」。そう考える中小企業の経営者が、ここ数年で確実に増えています。

週休2日、年間休日120日以上。求人票にそう書けば、応募が増えやすくなるのは事実です。しかし、休日を増やすことには見落とされがちなコスト面の影響があります。

「休日を増やしたら割増賃金の単価が上がった」。そんな話、聞いたことはありますか?仕組みを知らずに動くと、思わぬコスト増になることがあります。今回はその構造を、数字を使ってわかりやすく解説します。


目次

  1. 法定労働時間と年間の労働日数
  2. 割増賃金はどう計算されるのか
  3. 休日を増やすと割増賃金の単価が上がる理由
  4. 具体的な数字で確認する
  5. 休日増加を検討する前に確認すべきこと
  6. よくある質問
  7. まとめ

法定労働時間と年間の労働日数

まず基本から整理します。労働基準法では、会社が従業員を働かせてよい時間の上限を定めています。これを「法定労働時間」といい、1日8時間、1週間40時間が原則です。

週40時間を年間に換算するとどうなるか。

  • 40時間 ÷ 7日 × 365日 = 約2,085時間(うるう年は約2,091時間)

これが、1年間に働かせることができる時間の理論上の上限です。

1日の所定労働時間を8時間とした場合、年間の所定労働日数はこうなります。

  • 2,085時間 ÷ 8時間 = 260日(うるう年は261日)

つまり、1日8時間勤務の場合、年間の所定休日日数は「365日 − 260日 = 105日」が法定上の最低ラインに相当します。土日完全週休2日(年104日前後)+祝日分というイメージです。

「うちは年間休日が105日以上ある」という会社は、法定を上回る休日を設定しているということになります。


割増賃金はどう計算されるのか

割増賃金とは、時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合に支払いが必要な賃金です。計算式はこうなります。

  • 割増賃金 = 1時間当たりの賃金額 × 割増賃金率 × 時間数

月給制の場合、「1時間当たりの賃金額」は次の式で求めます。

  • 1時間当たりの賃金額 = 1ヶ月の所定賃金額 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間数
  • 1ヶ月の平均所定労働時間数 = 年間の所定労働時間数 ÷ 12ヶ月

ここに「休日を増やす」という変数が入ると、どうなるかが今回のポイントです。


休日を増やすと割増賃金の単価が上がる理由

1日の所定労働時間(8時間)を変えずに、年間の休日を増やすとどうなるか。

年間の所定労働日数が減ります。すると「年間の所定労働時間数」も減ります。すると「1ヶ月の平均所定労働時間数」も減ります。

1ヶ月の所定賃金額(月給)が変わらないまま、平均所定労働時間数が減ると…「1時間当たりの賃金額」が上がります

つまり、割増賃金の計算に使う「単価」が上がるということです。時間外労働が同じ時間数であっても、割増賃金の金額が増えることになります。


具体的な数字で確認する

少し具体的に見てみましょう。月給25万円の従業員がいるとします。

【パターンA】年間休日105日の場合

  • 年間所定労働日数:260日
  • 年間所定労働時間数:260日 × 8時間 = 2,080時間
  • 1ヶ月の平均所定労働時間数:2,080時間 ÷ 12ヶ月 ≒ 173.3時間
  • 1時間当たりの賃金額:250,000円 ÷ 173.3時間 ≒ 1,443円

【パターンB】年間休日120日に増やした場合

  • 年間所定労働日数:245日
  • 年間所定労働時間数:245日 × 8時間 = 1,960時間
  • 1ヶ月の平均所定労働時間数:1,960時間 ÷ 12ヶ月 ≒ 163.3時間
  • 1時間当たりの賃金額:250,000円 ÷ 163.3時間 ≒ 1,531円

1時間当たりの割増賃金単価が、約88円上がりました。月10時間の時間外労働があれば、割増賃金率1.25倍として計算すると…

  • パターンA:1,443円 × 1.25 × 10時間 = 18,038円
  • パターンB:1,531円 × 1.25 × 10時間 = 19,138円

1人当たり月1,100円の差。従業員が10人いて全員が同様に時間外をこなせば、月11,000円、年間132,000円のコスト増です。

「たった1,100円」と思うかもしれません。しかし、これが積み重なると無視できない金額になります。しかも、時間外が多い会社ほど影響は大きくなります。


休日増加を検討する前に確認すべきこと

休日を増やすこと自体は、採用・定着の観点から意義があります。否定しているわけではありません。ただ、「休日を増やすのは無料ではない」という認識を持った上で判断してほしいのです。

検討前に確認しておきたいポイントをまとめます。

  • 現在の時間外労働時間数を把握する:時間外が多い職場ほど、割増賃金単価の上昇影響が大きくなります
  • 月給ではなく年収で考える:休日が増えても月給を変えないなら、実質的な時給は上がります。それでいいのか確認を
  • 同業他社の水準と比較する:業種によって休日日数の相場は異なります。過剰に増やすより、業界水準に合わせる方が現実的な場合も
  • 段階的な導入を検討する:一気に年間休日120日にするのではなく、数年かけて段階的に増やす方法もあります

「競合他社が120日にしたから、うちも」という判断は危険です。自社の時間外労働の実態・人件費への影響を試算した上で判断することが大切です。


よくある質問

Q. 休日を増やす代わりに1日の労働時間を長くすれば、割増賃金への影響を抑えられますか?

A. 理論上はそうなりますが、1日8時間を超えると法定労働時間を超えることになり、その分に割増賃金が発生します。1日の所定労働時間を延ばす場合は、変形労働時間制の活用なども検討が必要です。安易に「1日9時間にすれば休日を増やせる」とはなりません。必ず専門家に相談した上で設計するようにしてください。

Q. 変形労働時間制を使えば、この問題は解決できますか?

A. 変形労働時間制を採用している場合、年間の所定労働時間数の計算方法が異なります。休日と労働時間のバランスを設計しやすくなる面はありますが、導入には労使協定の締結や就業規則の整備が必要です。自社の業態・勤務形態に合った制度設計が重要で、一律に「変形にすれば解決」とはいえません。


まとめ

今回のポイントをまとめます。

  • 法定労働時間(週40時間・1日8時間)が前提で、年間所定労働日数は理論上260日
  • 月給を変えずに年間休日を増やすと、1時間当たりの賃金単価が上がる
  • 割増賃金の単価が上がるため、時間外労働がある会社ほど人件費増につながる
  • 休日増加は採用・定着に有効だが、コスト試算をしてから判断することが大切

「年間休日を増やしたい」「採用のために魅力的な条件にしたい」という気持ちはよくわかります。ただ、数字の裏側にある影響まで把握せずに動くと、後から「こんなはずじゃなかった」になりかねません。

休日設計・賃金設計の見直しに不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。一緒に試算しながら、自社に合った答えを見つけましょう。

筆者プロフィール

泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2025年現在、延べ100社以上の中小企業を支援。
採用・定着・労務に関する相談は累計2,000件超。

徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。

姫路播州採用定着研究所
C&P社労士法人 公式サイト
Facebook