「今年も賃上げができなかった」「応募が来ない」「せっかく採用しても辞めてしまう」——姫路の中小企業経営者から、こうした声を毎月のようにいただきます。
2026年4月24日、政府が2026年版中小企業白書を閣議決定しました。キーワードは「稼ぐ力の強化」。賃上げと人手不足という構造的な課題に対し、中小企業が自律的に突破していくためのメッセージが込められています。
ただ、「稼ぐ力を高めろ」と言われても、具体的に何から手をつければいいのか。この記事では白書の内容を読み解きながら、姫路の中小企業経営者が「今すぐ着手すべきこと」を具体的に整理します。
目次
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賃上げと人手不足の「二重苦」——数字で見る現実
2026年版中小企業白書は、現在の中小企業が直面する課題を「賃上げと人手不足の二重苦」と表現しています。決して大げさな言葉ではありません。数字を見れば、その深刻さが伝わってきます。
2025年の春季労使交渉では、中小企業の賃上げ率は4.65%。約30年ぶりの高水準を記録しました。大企業との格差はあるものの、「上げた」という事実は確かにあります。しかし、これは「喜べる数字」だけではありません。
一方で、人手不足の状況はさらに深刻化しています。白書によれば、このまま手を打たなければ、2040年には中小企業の従業員数が2018年比で最大16%減少する可能性があると指摘されています。
賃上げをしなければ採用できない。しかし賃上げの余力は限られている。さらに人手が足りないから生産性が上がらず、稼ぎにくい——まさに悪循環です。この構造を断ち切るためのヒントが、今回の白書には示されています。
人手不足は「一時的な現象」ではない
多くの経営者が「景気が良くなれば人も来るだろう」と思っていますが、そうではありません。今の人手不足は、少子高齢化による労働供給の構造的な縮小が原因です。景気に関係なく、働ける人口そのものが減っていくのです。
特に地方都市・姫路のような環境では、若年層の都市部流出も重なります。「近くに工場があるから人が来る」という前提は、もはや通用しない時代になっています。
なぜ中小企業の賃上げは限界に来ているのか
中小企業の「賃上げ余力」を語るうえで、欠かせない指標があります。それが労働分配率です。
労働分配率とは、会社が生み出した付加価値(売上から原材料費などを除いた額)のうち、人件費に充てている割合のこと。この数字が高いほど、「利益の多くが人件費に消えている」ことを意味します。
2026年版白書では、中小企業の労働分配率は約80%に達していると示されています。大企業の平均が60〜70%台であることと比べても、中小企業のほうが賃上げ余力に乏しいことは一目瞭然です。
なぜこうなるのか。理由はシンプルです。多くの中小企業は価格競争にさらされており、付加価値を高めにくい構造にあります。値上げをしたくても取引先に言えない。サービスの単価を上げたくても競合に負ける気がする——その結果、利益率が低いまま人件費だけが上がっていきます。
「とりあえず賃上げ」の危うさ
補助金や助成金を活用して賃上げを行う会社も増えています。しかし、補助金が切れた後に元の水準に戻すことは現実的ではありません。一度上げた給与を下げることは、法律上も実務上も極めて困難です。
つまり、「稼げる体制」を作る前に賃上げだけ先行させると、後から経営を圧迫するリスクがあります。白書が「稼ぐ力の強化」を前提に置いている理由は、まさにここにあります。
2040年に向けて今から始める人材確保の仕組み
白書が示す「2040年に従業員数最大16%減少」という数字。14年後の話のように聞こえますが、実際には今すぐ対策を始めないと間に合いません。
採用には時間がかかります。定着にも時間がかかります。「採用できる会社」になるためには、採用ブランドを育て、職場環境を整え、育成の仕組みを作る必要があります。これは1〜2年でできることではありません。
今すぐ着手すべき3つの基盤整備
私が経営者の方に最初にお勧めする3点は、以下の通りです。
- 現状の離職率と離職理由を「見える化」する(退職者アンケートの導入など)
- 採用の基準(どんな人を、どんな方法で採るか)を明文化する
- 入社後の育成プロセス(最初の3ヶ月で何を教えるか)をマニュアル化する
この3点が「仕組み」として機能し始めると、採用と定着のサイクルが少しずつ安定します。逆に言えば、この基盤なしに「採用費を増やす」「給与を上げる」だけでは、根本的な解決にはなりません。
「選ばれる会社」になるための発信
人材確保の観点では、自社の魅力を外部に発信することも重要です。求人票の書き方、SNSでの情報発信、会社見学の受け入れ体制——これらは、採用にかかるコストを下げながら、自社にマッチした人材を引き寄せる効果があります。
特に姫路・播磨エリアでは、地元で働きたい若者が一定数います。地元の会社が「ここで働きたい」と思ってもらえる情報発信を続けることが、中長期的な採用力の向上につながります。
「稼ぐ力」と「人を大切にする文化」——両輪で進む
白書が「稼ぐ力の強化」を訴えるのは、制度や仕組みだけの話ではありません。私はここに、もう一つ大切な軸があると考えています。それが「人を大切にする文化(ソフト面)」です。
採用の仕組みを整える(ハード)だけでは、人は定着しません。職場の中に承認があるか。上司が部下の話をきちんと聞いているか。「ありがとう」が自然に飛び交う雰囲気があるか——こうしたソフト面の文化が、人が「ここで働き続けたい」と感じる土台になります。
これは精神論ではありません。職場文化が整っている会社ほど、採用コストが下がり、定着率が上がり、結果的に「稼ぐ力」も高まります。採用定着士として多くの中小企業を支援してきた実感として、これは間違いありません。
今日からできるソフト面の取り組み
特別な予算や制度は不要です。まずは以下の3点から始められます。
- 上司が月1回、部下と1on1で話す機会を設ける
- 小さな成果を「言語化」して本人に直接伝える(「あの対応、よかったよ」と一言)
- 採用面接で「どんな職場で働きたいか」を聞き、入社後の環境と照合する
制度(ハード)と文化(ソフト)。この両輪が揃ったとき、採用も定着も「仕組み」として回り始めます。どちらか一方だけでは、必ずどこかで行き詰まります。
よくある質問
Q. 賃上げの余力がない中小企業は、採用で何をアピールすれば良いですか?
A. 給与以外の「働きやすさ」や「成長機会」をアピールすることが有効です。残業が少ない・有休が取りやすい・上司との距離が近い、といった職場環境の良さは、特に若い世代に響きます。入社後にどんなスキルが身につくか、どういうキャリアが描けるかを具体的に示せると、「給与は少し低くても、ここで働きたい」と感じてもらいやすくなります。
Q. 「稼ぐ力を高める」とは、具体的に何をすればいいですか?
A. 自社の商品・サービスの「付加価値」を見直すことが出発点です。「なぜうちから買うのか」「他社との違いは何か」を整理し直し、価格競争から一歩抜け出す戦略が必要です。採用定着の観点では、人手不足の中でも成果を出せる業務設計(標準化・マニュアル化)を進めることも「稼ぐ力」につながります。当社でも、この部分からご支援することが多いです。
まとめ
2026年版中小企業白書が示したのは、「賃上げしろ」という圧力だけではありません。自ら稼ぐ力を持ち、人が集まり定着する会社へと変わっていくための「道筋」でした。
ポイントを整理します。
- 中小企業の労働分配率はすでに約80%。「ただ上げるだけ」では早晩限界が来る
- 2040年には従業員が最大16%減少する可能性。今から採用・定着の仕組みを作ることが急務
- 制度(ハード)と文化(ソフト)の両輪が揃って初めて、採用定着は機能する
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。
姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年5月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
徹底的な伴走支援で、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する事を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
*姫路播州採用定着研究所
*C&P社労士法人 公式サイト
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