姫路の特定社労士が見た「縁故採用しか信じない」会社ほど人が採れない理由

先日、ある経営者と採用の話をしていた時のことです。「ネットの求人媒体は怖くて出せない」という一言が出てきました。

理由を聞くと、同業者から「ネット媒体で採用した人がトラブルの元になった」「合同労働組合に駆け込まれて会社が揺れた」という噂を何度も聞いているとのことでした。だから知り合いのつて、いわゆる縁故採用だけで何とかしてきた、と。

気持ちはよく分かります。ただ、この考え方のまま何年も続けていると、確実に採用の間口は狭くなっていきます。今日はこの「縁故採用への依存」と、その裏側にある「採用予算をかけることへの恐れ」について、実際にあったやり取りをもとにお話しします。

目次

  1. 「渡り鳥」と「ユニオン」への恐怖が縁故採用に向かわせる
  2. 縁故採用だけに頼ると、いずれ紹介できる人がいなくなる
  3. 合同労組トラブルは「採用経路」ではなく「労務管理の運用」が原因
  4. 「予算をかけない採用」の見えないコスト
  5. 福利厚生という「隠れた強み」を求人に出せていますか
  6. よくある質問
  7. まとめ

「渡り鳥」と「ユニオン」への恐怖が縁故採用に向かわせる

ある飲食業の経営者とお話しした際、こんな内容が出てきました。

  • 厨房・ホールのスタッフは長年、募集をかけたことがなく縁故採用のみ
  • 理由は「ネット媒体で採ると渡り鳥のような人が来る」という同業者の話
  • 「合同労働組合に加入されて会社が揺さぶられた」という噂も聞いている
  • 結果、知り合いのつてでの採用に限定してきた

実際にその会社で何かトラブルがあったわけではありません。「聞いたことがある」「噂で知っている」という間接情報だけで、採用の選択肢を自ら狭めてしまっていたのです。

これは決して特殊な話ではありません。同じ理由でネット媒体を避け続けている経営者は、業種を問わず少なくありません。


縁故採用だけに頼ると、いずれ紹介できる人がいなくなる

10年前であれば「知り合いに良い人がいたら紹介して」と声をかければ、何人か候補が挙がった時代でした。しかし今は違います。労働市場は完全に「超・売り手市場」に変わり、紹介できる人材そのものが枯渇しています。

先ほどの会社でも、経営者は「厨房・ホールに数名を今後数年以内に採用したい」と明確な人数目標を持っていました。ところが採用の手段は「縁故と声かけ」のみ。これでは、必要な人数を必要な時期に確保できる保証がどこにもありません。

縁故採用が悪いわけではありません。むしろ紹介で入った人材は定着率が高い傾向にあります。問題は「縁故しか使わない」という一択の姿勢です。母集団を確保する手段が一つしかなければ、その手段が枯渇した瞬間、採用は止まります。


合同労組トラブルは「採用経路」ではなく「労務管理の運用」が原因

「ネット媒体で採ると変な人が来る」という不安の根っこには、「合同労働組合に関わるようなトラブルを避けたい」という気持ちがあります。これも自然な感覚です。

ただ、実務としてお伝えしたいのは、こうしたトラブルは採用経路の問題ではなく、労務管理の運用が実態と合っていないことが根本原因であるケースが大半だということです。

就業規則が整備され、労働時間・給与計算・契約内容の運用が一貫していれば、どこから採用しても大きな差は生まれません。逆に、契約書は正しく作られていても、実際の給与計算や勤怠管理への反映が一貫していなければ、何かのきっかけでそのズレが表面化するリスクはゼロではありません。

こういった「書類上の正しさ」と「実際の運用」のズレこそが、後々のトラブルの火種になります。採用経路を恐れる前に、まずここを点検する方が優先順位は高いのです。


「予算をかけない採用」の見えないコスト

縁故採用にこだわる会社ほど、採用や定着に予算をかけることを嫌がる傾向があります。これは、「昔は無料で(ハローワーク等)採用できていたから」という過去の成功体験や、「できればお金をかけたくない」という心理が働いていることが多いです。

ですが、忘れてはいけないのは、「予算をかけない採用」にも見えないコストがかかっているということです。採用できないまま在籍者に業務が集中し続ければ、残業や休日出勤という形で人件費は膨らみますし、代わりが利かない人材が一人でも離脱すれば、事業そのものが止まりかねません。

大切なのは、媒体の知名度でお金をかけるかどうかを決めるのではなく、「原稿の中身」にどれだけ投資できるかという発想です。予算をかけても、求人原稿に会社の強みが正しく反映されていなければ、応募は増えても採用にはつながりません。逆に、原稿の中身が磨かれていれば、少ない予算でも来てほしい人材に届きます。


福利厚生という「隠れた強み」を求人に出せていますか

面白いことに、こうした会社ほど「実はすごく良い制度」を持っていながら、それを求人に一切出していないことがよくあります。

先ほどの会社にも、従業員の資産形成を会社がサポートする福利厚生制度がありました。決して珍しくはないものの、中小企業ではまだ多くない制度です。ところが、この制度の存在は求人原稿にも社内周知にもほとんど反映されていませんでした。

「残業がありません」「給与はこれくらいです」という条件面の訴求だけでは、他社との差別化になりにくい時代です。それよりも、自社が当たり前だと思っている制度の中に、実は強みが眠っていないかを一度棚卸ししてみることをお勧めします。


よくある質問

Q. ネットの求人媒体を使うと、本当に合同労働組合のリスクは上がるのでしょうか?

A. 採用経路そのものがリスクを直接引き上げるわけではありません。リスクの本質は、就業規則の整備状況や労務管理の運用が実態と合っているかどうかです。運用が適正であれば、どの経路から採用しても大きな差は生まれません。

Q. 縁故採用とネット媒体、どちらを優先すべきですか?

A. どちらか一方に絞る必要はありません。縁故採用は定着率の高さという強みがあるので継続しつつ、必要な人数・時期を確保する保険としてネット媒体も併用する、という「両輪」で考えるのが現実的です。


まとめ

縁故採用だけに頼る姿勢は、一見リスクを避けているようで、実は「必要な人数を必要な時期に確保できない」という別のリスクを抱え込んでいます。

合同労組などのトラブルへの不安は、採用経路を制限することではなく、労務管理の運用を整えることで下げるべきものです。そして、ネット媒体に予算をかける際は、媒体選びよりも原稿の中身と自社の強みの棚卸しに力を注ぐことが、結果的に一番の近道になります。

「うちは縁故しかない」「ネット媒体は怖い」と感じている方は、まず自社の労務管理が実態と合っているかを確認するところから始めてみてください。採用の選択肢を狭めているのは、媒体そのものではなく、足元の不安かもしれません。そんな不安に心当たりがあれば、ぜひ当社にご相談ください。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年8月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。