人は誰しも、自分をよく見せたいと思っています。弱みや苦手なことは、面接では特に、隠したくなるものです。
2026年8月23日、日本財団の調査で、発達障害や精神疾患の診断を受けた人の76.5%が、就職活動の際にその事実を伝えていないことが報じられました。これは、障害や疾患に限った話ではありません。程度の差こそあれ、誰もが同じことをしています。
このニュースのコメント欄を見ると、多くの人が同じところで立ち止まっています。障害や疾患について、面接で聞いてはいけない。でも、事実は把握しておきたい。では、どうすればいいのか――。
今日は、人が弱みを隠す理由と、それでも本音を話してもらうための「やり方」をお伝えします。
目次
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なぜ、人は弱みを隠すのか
日本財団の調査対象は、障害者手帳を持たず、一般の採用枠で就職活動をした人たちです。伝えなかった理由の多くは「伝えれば不採用などの不利益を被るかもしれない」という懸念でした。
これは障害や疾患だけの話ではありません。弱み、苦手なこと、過去の失敗。人は面接という場で、自分をよく見せようとして、都合の悪いことを隠します。「隠す」のは、応募者の性格の問題ではなく、面接という構造がそうさせているのです。
障害者雇用促進法には、事業主に合理的配慮を義務づける規定がありますが、募集・採用の段階では、この義務は本人からの申出があって初めて動き出す建てつけになっています。法律は「言い出してくれること」を前提にしていますが、現実にはそう簡単に言い出せません。この制度と実態のズレを埋めるのは、目の前の企業が「言い出しやすい場」を先につくることだと私は考えています。
やり方①:面接官から先に自己開示する
私が実践している面接は、当社が推奨する「ファン化面接」という型に沿っています。いきなり本題に入らず、まずアイスブレイクをし、今日の面接の流れを説明したうえで、面接官である私自身が先に自己開示をします。なぜこの仕事をしているのか、何を大切にしているのか。取り繕わず、正直に話します。
面接官が何も見せないまま、応募者にだけ本音を求めるのは、そもそもフェアではありません。先に見せるから、相手も見せてくれる。それだけのことです。配慮はするが、遠慮はしない。取り繕った言葉より、多少格好悪くても本音の自己開示のほうが、結果的に相手の心を開きます。
やり方②:良いことだけでなく、悪いことも先に言う
自己開示は、面接官個人の話だけでは終わりません。会社についても同じです。
面接で、自社の良いことばかりを並べる会社は少なくありません。しかし、それでは応募者も本音を出しにくくなります。私は面接で、当社の良いところと同じくらい、正直に「悪いところ」も伝えるようにしています。忙しい時期のこと、向いていない人には合わないこと、入ってから「思っていたのと違った」と感じやすい点。
先に悪いことを見せる会社に対して、応募者は身構える必要がなくなります。自分の弱みも、安心して話せるようになります。良いことだけを言う会社は、どこか信用されません。悪いことも先に言う会社だけが、本音を引き出せます。
なぜ、この姿勢が本音を引き出すのか
自己開示を尽くしたうえで、私はこう聞きます。「当社で働くうえで、心配な点はありますか」。面接官が先に手の内を見せているからこそ、この質問は圧迫にならず、素直な言葉を引き出せます。この順番で聞かれた人は、隠しません。隠す理由が、もうないからです。
76.5%が言わなかった最大の理由は「言えば不利益を被るかもしれない」という不安でした。だとすれば、不利益がないことを、言葉ではなく自己開示で先に証明すればいい。順番を変えるだけで、開示のハードルは大きく下がります。事実を隠して入社した人は、必要な配慮を受けられないまま働き続けることになり、後になって「思っていたのと違った」という展開にもつながりかねません。早い段階で本音が出るほうが、会社にとってもリスクは小さくなります。
逆に、面接の順番を変えず、良いことばかりを並べたまま採用した場合を想像してみてください。
- 入社後しばらくして、「聞いていた話と違う」という不満が出る
- 本人は言い出せず、周囲は理由が分からないまま不満をためる
- 結局、短期間で退職につながる
- 現場には「やっぱり合わなかったんだね」という空気だけが残る
これは、本人の能力の問題ではありません。最初に手札を見せなかった、こちら側の問題です。
中小企業だからこそできる採用
大企業のように、1つの求人に何百人もの応募が来ることは、中小企業ではまずありません。私がいつもお勧めしているのは、欲しい人物像を1人に絞り込んで求人原稿を書くやり方です。応募数は減りますが、マッチ率は上がります。そして何より、1人ひとりとじっくり話す時間が取れます。
自己開示を尽くし、心配な点を聞く。この順番は、母集団を絞っているからこそ成立します。応募が殺到する大企業には、まねしたくてもできないやり方です。私はこれこそが、中小企業の強みだと考えています。
求人原稿を書くときも、私は「全部できる人」を求める書き方をお勧めしていません。得意なことと苦手なことが明確な人材のほうが、業務の割り振りも、配慮の内容も具体的に設計しやすいからです。欲しい人物像をはっきりさせることは、すべての採用に通じる考え方だと思っています。
採用より定着が先、というのが私の口癖です。その定着は、内定を出した日からではなく、面接室で最初に口を開いた瞬間から、もう始まっています。
よくある質問
Q1. 面接で障害や持病について聞いても大丈夫ですか?
A. 業務内容と関係のない形で健康状態を詮索するのは避けるべきです。具体的な業務内容を先に示したうえで「配慮が必要な点はありますか」と確認する形が、実務上の目安として推奨されています。大切なのは、質問の順番と見せ方です。
Q2. 「全部できる人」を求めないほうがいい、というのはなぜですか?
A. 得意なことと苦手なことが明確な人材のほうが、業務の割り振りも、配慮の内容も具体的に設計しやすいからです。
Q3. 「悪いこと」を先に言うと、応募者が減ってしまいませんか?
A. 短期的には減るかもしれませんが、それでいいのです。入社後にギャップを感じて辞める人を減らすほうが、長い目で見れば採用コストも定着率も改善します。「隠さない」ことは、応募数より定着を優先する選択です。
まとめ
人が弱みを隠すのは、性格の問題ではなく、「先に手札を見せるのは誰か」という順番のズレから生まれています。面接官が先に自己開示し、会社の良いことも悪いことも先に伝える。この姿勢だけが、応募者に本音を言わせます。採用でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年8月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。
「採用より定着が先」――これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。
