転職を考える人は世界で4人に1人|姫路の採用定着士が伝える、辞めていない社員の本音を聞くための1on1の頻度と、聞き方の研修が必要な理由

2026年10月19日、ダイヤモンド・オンラインが「そりゃ辞めるわ…Z世代が会社を見限る『給料じゃない』本質的な理由」という記事を配信しました。素材は、人材サービス大手ランスタッドが10月8日に公表した調査です。世界34の国と地域で、就業者・求職者16万6000人以上に聞いています。

同年上半期に転職を計画している人は、世界平均で24%でした。つまり、世界で約4人に1人が転職を考えています。一方で、実際に転職した人は17%です。Z世代に絞ると、転職意向が30%、実際の転職率が24%に達しました。

私が引っかかったのは、「転職を考える人が24%いるのに、実際に辞めたのは17%」という差のほうです。辞めていない社員は、本当に会社に満足しているのでしょうか。今日はそれについて、批判をおそれず、私の持論をお話しします。


目次

  1. ニュースの概要
  2. 辞めていない社員は、会社に満足しているとは限らない
  3. 本音を言える相手は、社内に一人いればよい
  4. 本音を聞く仕組みは、1on1の頻度と時間を決めてつくる
  5. 聞き方は台本では身につかず、研修が必要
  6. アンケートでは本音が出ないので、外部のキャリアコンサルタントを入れる
  7. 辞めさせる目的で聞かず、本人の望みと会社の期待を話し合う
  8. 社員は会社の駒であると同時に、自分で動く主体でもある
  9. よくある質問
  10. まとめ

ニュースの概要

ランスタッドの「エンプロイヤーブランド リサーチ2026 グローバル版」は、2026年1月に実施された調査です。退職を考える理由の世界1位は、「不十分な報酬」の39%でした。2位は「ワークライフバランスの改善」で35%、3位は「キャリア成長機会の欠如」で30%です。

記事の見出しは「給料じゃない」ですが、世界1位は報酬です。ただし、アジア太平洋地域だけを見ると、1位は「ワークライフバランスの改善」の35%で、「不十分な報酬」の34%をわずかに上回っています。北米では、「経営陣・上司との不和」が30%で3位に入りました。

退職を考える理由は、地域によっても人によっても違います。そして、本人が会社にその理由を話しているとは限りません。これが、今日の話の出発点です。


辞めていない社員は、会社に満足しているとは限らない

記事も、社員が辞めていないからといって、必ずしも会社に満足しているとは限らないと指摘しています。条件の良い転職先が見つかれば、辞める人がいるかもしれません。こうした表に出ない不満を、記事は「潜在的離職リスク」と呼んでいます。

私も同じ考えです。「うちの社員は辞めていないから大丈夫」と社長が思っていても、辞めていないことと、満足していることは別です。

なお、転職意向と実際の転職率は、調査の対象期間が違います。そのため、24%と17%の差がそのまま「転職を断念した人」の数になるわけではありません。それでも、辞めないまま不満をためている社員が、会社の中にいることは間違いないと私は思います。


本音を言える相手は、社内に一人いればよい

では、どうすれば潜在的離職リスクに気づけるのでしょうか。私の答えは、本音を言いやすい職場をつくることです。

ここで大事なのは、社員全員が社内の全員に本音を言えなくてもいいという点です。社長には言えなくても、あの先輩になら言える。直属の上司には言えなくても、隣の部署のあの人になら話せる。そういう相手が一人でもいれば、社員は会社に居場所を感じられます。

だからこそ、「この先輩には言える」と社員が思える関係を、会社が意図してつくる必要があります。偶然に任せていると、本音を言える相手がいない社員は、ある日突然、退職を申し出ます。


本音を聞く仕組みは、1on1の頻度と時間を決めてつくる

まず必要なのは、仕組み(ハード)です。次の2つを決めてください。

  1. 何か月に1回、1on1をするのか(例:3か月に1回)
  2. 1回につき何分かけるのか(例:30分)

頻度と時間が決まっていないと、1on1は「忙しいから、また今度」で消えてしまいます。社員も、話したいことがあるときに「わざわざ時間をください」とは言い出しにくいものです。最初から予定として入っていれば、何も言わなくても話す機会があります。

ただし、仕組みをつくっただけでは、本音は出てきません。1on1をしているのに社員が辞めていく会社は、仕組みをつくった段階で止まっています。


聞き方は台本では身につかず、研修が必要

本音を引き出せるかどうかは、聞き方で決まります。何を聞くのか、どう聞くのか。これが、聞き方(ソフト)です。

多くの会社がやってしまうのが、質問リストの配布です。「1on1ではこの質問をしてください」と紙を渡して、「この通りに読んでください」と言います。しかし、質問リストを台本のように読んでも、聞き手は聞けるようにはなりません。台本どおりに質問された部下は、「質問されているな」と感じるだけで、本音は言いません。

聞き手に必要なのは、コーチングやコンサルティングのスキルです。相手の言葉を受け止めて、相手が気づいていない本音を引き出す。これは、研修を受けて、練習しなければ身につきません。そして、聞き手本人は「できているつもり」になっていることがほとんどです。実際にはできていないから、社員は辞めていくし、本音も言わないのです。


アンケートでは本音が出ないので、外部のキャリアコンサルタントを入れる

もう一つ、私が勧めたいのが、外部の専門家を入れることです。たとえば、キャリアコンサルタントに社員と面談してもらいます。

「アンケートを取れば、本音が分かるのでは?」と思う社長もいるでしょう。しかし、アンケートに本音を書く社員は多くありません。しかも、本人が自分の不満に気づいていない場合もあります。言葉にできていないことは、空欄に書けないのです。だから、対話の中で本音を感じ取っていくしかありません。

外部のキャリアコンサルタントに頼むと、1時間3万円、5万円といった費用がかかります。高いと感じるかもしれません。ただ、社員が一人辞めたときの損害を思い浮かべてください。採用にかけた時間、教育にかけた時間、その人が担当していた仕事の穴。それを考えれば、本音を聞き出すための面談は、十分に安いと私は思います。


辞めさせる目的で聞かず、本人の望みと会社の期待を話し合う

本音を聞くときに、気をつけてほしいことがあります。「この社員、辞めるんじゃないか」という目で見ないことです。辞めさせない目的で聞かれていると分かると、社員は警戒して本音を引っ込めます。

聞くのは、その社員が本当に何を望み、何に困っているのかです。そのうえで、会社や上司が何を期待しているのかも伝えます。「会社は今、こういう方向に進んでいる。そのために、私たちはこう動いている。あなたには、この部分の役割を担ってほしい」と話すのです。

これは、社員を会社の歯車として使うという話ではありません。チームプレイの話です。本人の望みと会社の期待をすり合わせて、はじめて、社員は「ここで働き続ける理由」を持てます。


社員は会社の駒であると同時に、自分で動く主体でもある

私は社員によく、「私も含めて、全員が将棋やチェスの駒だ」と話しています。役割だけ見れば、私は王将かもしれません。しかし、王将が一番強いかといえば、そんなことはありません。王将は1マスずつしか動けませんから(笑)、飛車や角のほうが、よほど強いのです。

だから私は、「私をどう活かせば、一番効果的か考えてほしい」と社員に言っています。私も、社員一人ひとりをどう活かせば効果的かを考えます。社員のみんなは、駒であると同時に、自分で考えて動く主体でもあります。社長に動かされるだけの存在ではありません。

こう伝えたうえで本音を聞くと、社員は自分が駒でもあり、自分で動く主体でもあると分かっているので、「私はこう動きたい」「ここに困っている」と言いやすくなります。


よくある質問

Q1. 小さな会社なので、1on1に時間をかけられません。それでもやるべきですか?

A. 時間が取れないなら、まず3か月に1回、30分から始めてください。大事なのは、頻度と時間を先に決めて、予定に入れてしまうことです。最初から全社員に1on1をしなくても構いません。まず1人から始めて、「この先輩になら言える」という相手を増やしてください。

Q2. 質問リストを配るのは、まったく意味がないのでしょうか?

A. 何を聞くかを考える材料としては使えます。ただ、リストを渡して「この通りに読んでください」と言っても、本音は引き出せません。聞き方はコーチングやコンサルティングのスキルなので、研修で学ぶ必要があります。当事務所は全国オンラインで対応していますので、1on1の仕組みづくりと聞き方の研修をお手伝いできます。


まとめ

ランスタッドの調査では、転職を考える人は世界で4人に1人、実際に転職した人は約6人に1人でした。この差が何人分の不満を表すのかは分かりませんが、辞めていない人の中に不満をためている社員がいます。これが潜在的離職リスクです。辞めていないことは、満足していることとは違います。

見えないリスクを減らすには、本音を言える職場をつくるしかありません。頻度と時間を決めて1on1をします(ハード)。聞き方を学ぶ研修を受け、必要なら外部のキャリアコンサルタントに頼みます(ソフト)。そのうえで、本人の望みと会社の期待を話し合います。

社長ご自身で、「うちの社員には、『この先輩になら言える』という相手がいるか」と、問い続けてください。本音を聞く仕組みに、ハードとソフトの両輪は揃っているでしょうか。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,100件超(2026年10月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。