活躍している社員に「なぜ続けているのですか」と聞いてみてください|姫路の採用定着士が伝える、求人原稿でいちばん伝わる言葉の見つけ方

「うちには、アピールできることなんて、何もないんですよ」

先日、従業員28名の板金加工会社の社長さんが、求人原稿を前にして、ため息まじりにそう言いました。原稿には「アットホームな職場です」「未経験歓迎」と書いてあります。どこかで見たような言葉ばかりで、社長さん自身も、これでは誰にも響かないと感じているようでした。

そこで私は、社長さんにお願いをしました。「いま現場で活躍している社員さんに、お話を聞かせてもらえませんか。聞きたいのは、入社した理由ではありません。なぜ、今も続けているのか、です」。

結果から言うと、社長さんが「何もない」と言っていた会社には、求人原稿に使える言葉が、ちゃんと眠っていました。その言葉は、「なぜ今も続けているのか」という質問から見つかりました。今日はそれについて、私の持論をお話しします。


目次

  1. 相談の概要
  2. 入社した理由より、続けている理由を聞く
  3. 会社の当たり前が、働く人の選ぶ理由になる
  4. 本音は社長のいない場と無記名アンケートで聞く
  5. インタビューする2人の選び方
  6. 聞いた言葉の使い方
  7. よくある質問
  8. まとめ

相談の概要

この板金加工会社は、創業38年。従業員は28名で、溶接や曲げ加工を行っています。ここ2年、現場の若手が相次いで辞め、求人を出しても応募はほとんど来ません。社長さんは、「給料も休みの日数も、大手には勝てません」と話していました。

求人原稿を新しく作ることになり、私は社員さんにインタビューをする時間をいただきました。社長さんに選んでもらったのは、2人です。1人は勤続12年の溶接担当のAさん。もう1人は、入社して8か月の加工担当のBさんです。

インタビューの前に、社長さんは心配そうにこう言いました。「聞いても、たいした話は出てこないと思いますよ。うちの社員は、みんな普通に働いているだけですから」。ところが、Aさんの最初の答えで、その予想は外れました。


入社した理由より、続けている理由を聞く

求人原稿を作るための社員インタビューというと、「入社したきっかけは何ですか」と聞くのが定番です。もちろん、それも聞きます。ですが、私が何より大事にしている質問は、「なぜ今も、この会社で働いているのですか」です。

理由は2つあります。1つ目は、入社したきっかけは人によってばらばらで、原稿に使いにくいことです。「家から近かった」「知人に誘われた」「たまたま求人を見た」。どれも事実ですが、これから応募を考えている人が知りたいのは、そこではありません。

2つ目は、求職者の最大の不安が、「入社したあと、続けられるだろうか」だからです。求職者は、会社に入れるかどうかよりも、入ってから辞めたくならないかを心配しています。だから、実際に12年続けている人の言葉は、どんなキャッチコピーよりも強いのです。

Aさんに「なぜ12年も続けているのですか」と聞いてみました。少し考えてから、Aさんはこう答えました。「休みが確実に取れるんです。子どもとの約束を、ちゃんと守れるようになりました」。


会社の当たり前が、働く人の選ぶ理由になる

詳しく聞くと、Aさんの前の職場は、全国に店を持つ飲食チェーンでした。店長を任されていた頃は、残業が月100時間を超える月もあり、休みの日にも店から電話がかかってきたと話していました。子どもが小さかったのに、遊ぶ約束を何度も守れず、転職を決めたと言っていました。

今の板金加工会社は、年間休日が108日。残業は月に15時間ほどで、休みの日に電話がかかってくることはありません。休日の日数は大手に及びませんが、決まった休みは確実に取れます。社長さんにとっては、ごく当たり前のことです。ですが、Aさんにとっては、休みの日に子どもとの約束を守れることが、12年間この会社を選び続けている理由でした。

インタビューのあとでこの話を伝えると、社長さんは驚いた顔でした。「そんなことで、ありがたいと思ってくれているんですか」。そうなのです。会社が当たり前だと思っていることは、他の職場を知っている人にとっては、当たり前ではありません。求人原稿で書くべき強みは、社長が自慢したいことではなく、社員が感謝していることのほうにあります。

社長さんが「何もない」と言っていた会社には、決まった休みが確実に取れること、残業が月15時間ほどであること、休みの日に電話が来ないこと、という3つの強みがありました。この3つを原稿の冒頭に置きます。求職者は、「アットホームな職場です」と書かれるより、この会社で働く自分を想像しやすくなります。


本音は社長のいない場と無記名アンケートで聞く

社長が隣にいると、社員は言いたいことがあっても言えません。この会社でも、Aさんは社長さんのいない部屋だったから、前職のつらさや家族の話まで話してくれました。インタビューのときは、社長に席を外してもらうことをおすすめします。

2人の話だけでは偏るので、インタビューだけでなく、無記名のアンケートも組み合わせます。この会社の28名全員に、5分ほどで答えられる質問を配りました。聞いたのは、次の3つです。

  • なぜ、この会社で働き続けているのですか
  • 前の職場と比べて、いちばん違うと感じることは何ですか
  • この会社に入ろうか迷っている人に、一言お願いします

回答は24名から集まり、そのうち17名が「休みが取りやすい」「家族との時間が持てる」など、休みや家族に関することを書いていました。1人のインタビューで見つけた言葉が、全体の傾向だったと数字で分かると、原稿に自信を持って書けます。


インタビューする2人の選び方

インタビューする人を選んでもらうときの、私の基準はシンプルです。勤続の長い人を1人、入社して間もない人を1人。この2人を組み合わせます。

勤続の長い人からは、「なぜ続けているのか」を聞きます。入社して間もない人からは、「入る前に不安だったこと」と「入ってみて、どうだったか」を聞きます。Bさんに聞くと、こう話してくれました。「金属の加工は未経験だったので、手が震えるほど不安でした。でも、最初の1か月は、先輩が隣について、1日1つだけ教えてくれました」。

この言葉は、これから応募を考えている未経験の人の不安に、ぴったり重なります。長く続けている人の言葉は「ここなら続けられる」という安心を、入社して間もない人の言葉は「自分にもできそう」という共感を生みます。両方がそろうと、読む人の心に届きます。

入社して間もない人は、できれば、未経験で入社した人か、アルバイトから正社員になった人にしてください。応募を考えている人と同じ立場だった人の言葉は、迷っている人に、何より届きます。


聞いた言葉の使い方

インタビューで集めた言葉は、できるだけそのまま原稿に使います。Aさんの「子どもとの約束を、ちゃんと守れるようになりました」という言葉を、「ワークライフバランスが充実」のような言い方に変えてしまうと、一気に他社の原稿と同じになります。社員の言葉は、言い換えずに使います。

社員の言葉は、少し不器用なくらいが、本物に見えます。求職者は、いいことばかりよりも、リアルが聞きたいのです。だから私は、インタビューで「入ってみて、ギャップはありましたか」と、あえて聞くようにしています。Bさんの「手が震えるほど不安でした」のように、入る前の不安と入ってからの実感の差は、そのまま原稿に書けます。

一方で、インタビューの中には、会社への不満や要望が出てくることもあります。この会社でも、「夏場の作業場が暑い」「古い機械が多い」という声がありました。こうした要望は、会社がこれから直していくことなので、求人原稿には載せません。面接で聞かれたら、正直に答えます。要望は、原稿に使う材料ではなく、会社を良くするための材料です。社長さんには、別の資料にまとめて、改善の優先順位を一緒に考える時間をとりました。


よくある質問

Q. 社員インタビューには、1人あたり何分くらい必要ですか?

A. 1人30分から40分あれば足ります。長く話してもらうよりも、「なぜ続けているのですか」の一問を、深く聞くことのほうが大事です。最初の質問に答えてもらったあと、「それは、前の職場と何が違うのですか」と、一歩踏み込んで聞いてみてください。

Q. 社員が少ない会社でも、インタビューや無記名アンケートは意味がありますか?

A. あります。社員が10名ほどの会社なら、インタビューは2名にお願いして、アンケートは全員に配ります。10名のうち7名が同じことを書いていれば、それが会社の強みです。人数が少ない会社ほど、1人ひとりの言葉が、そのまま会社の姿になります。


まとめ

板金加工会社の求人原稿は、冒頭を書き直しました。「アットホームな職場です」の代わりに、「決まった休みは確実に取れる(年間休日108日)」「残業は月15時間ほど」「休みの日に電話が来ない」と書きました。そして、勤続12年のAさんの言葉と、入社8か月のBさんの言葉を、そのまま添えました。

社長さんは、「うちの強みは、私より社員のほうがよく知っていたんですね」と笑っていました。強みは、社員の言葉の中に隠れていました。社長さんが何もないと言っていたのは、強みがなかったからではなく、当たり前すぎて気づかなかったからです。

求人原稿に悩んでいる社長さんは、まず、いま活躍している社員に「なぜ続けているのですか」と聞いてみてください。きっと、会社の当たり前の中に、応募者に届く言葉が見つかります。

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筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,100件超(2026年10月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。