「ウチは事務所仕事が中心だから、熱中症対策なんて関係ない」。そう思っている経営者ほど、実は一番危ういかもしれません。
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策は罰則付きの義務になりました。昨年、職場の熱中症による死傷者数は統計を取り始めた2005年以降で過去最多の1,681人(うち死亡15人)。9年前の約3.6倍という数字です。
この記事では、何が義務化されたのか、対象になる作業の基準、そして中小企業が今日から実践できる対応を、特定社会保険労務士の視点から解説します。
目次
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何が変わったのか|改正安衛則の3つの義務
今回の改正で、事業者には労働安全衛生規則第612条の2に基づき、次の3つの措置が義務づけられました。
- 熱中症の自覚症状がある人、疑いのある人を見つけた際に報告するための体制の整備(連絡先・担当者をあらかじめ定める)
- 作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察など、症状の悪化を防ぐための実施手順の作成
- これらの体制・手順を、関係する作業者全員に周知すること
これらを怠った場合、労働安全衛生法第119条に基づく罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科される可能性があるとされています。「知らなかった」では済まされない段階に入っています。
対象になる作業とその基準(WBGT値・作業時間)
対象となるのは、暑さ指数(WBGT値)28度以上、または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日当たり4時間を超える作業が見込まれる場合です。
建設業や製造業の屋外・屋内作業が主な対象として語られがちですが、この基準は業種を限定していません。倉庫内での荷役作業、厨房での調理作業、屋外での配送・営業活動など、姫路の中小企業にも該当しうる現場は少なくないはずです。
被害は建設業・製造業・50歳以上に集中
厚生労働省の分析によれば、職場の熱中症死傷者数は増加傾向にあり、特に建設業や製造業、そして50歳以上の労働者に被害が集中しています。そして死亡災害のほとんどが「初期症状の放置」「対応の遅れ」に起因すると分析されています。
なぜ「制度」だけでは人は守れないのか
報告体制を紙に書き、手順書を作り、それを周知する。ここまでやれば、法律上の義務は一応クリアです。しかし私は、それだけでは現場の人は守れないと考えています。
熱中症の初期症状(めまい、だるさ、頭痛など)は、本人が「大したことない」と我慢してしまいやすいものです。手順書が引き出しの奥にしまわれたままでは、いざという時に誰も思い出しません。
制度(ハード)を整えることと、日々「今日、暑くないか」「顔色悪くないか」と声をかけ合う対話(ソフト)。この両輪が噛み合って初めて、重篤化する前に人を守れる組織になります。制度だけでも、声かけだけでも、どちらか一方では不十分です。
今日からできる3つの実務対応
大がかりな設備投資をしなくても、今日から始められる対応があります。
1. 報告ルートを1枚の紙にする
「体調が悪いと感じたら、誰に、どうやって伝えるか」を1枚にまとめ、休憩室や現場事務所に掲示します。担当者が不在の場合の代理連絡先も明記しておくことがポイントです。
2. 対応手順を「行動レベル」で決めておく
「涼しい場所に移動する」「衣服を緩め、体を冷やす」「水分・塩分を摂らせる」「改善しなければ医療機関へ」という一連の流れを、誰が見ても分かる形で決めておきます。判断を現場任せにしないことが重要です。
3. 朝礼・声かけを仕組み化する
始業時に「昨夜眠れたか」「今日の体調はどうか」を一言確認するだけで、初期症状の見逃しは大きく減ります。制度と対話をセットで運用することが、義務化への対応であると同時に、社員に「大切にされている」と感じてもらう機会にもなります。
よくある質問
Q. 事務所仕事が中心の会社でも対象になりますか?
A. 改正安衛則の対象は業種で区切られているわけではなく、WBGT値や作業時間の基準を満たす作業かどうかで判断されます。倉庫作業、屋外での納品・営業、空調のない作業スペースでの業務などが日常的にあれば、事務所メインの会社でも該当する可能性があります。まずは自社の作業内容を棚卸しすることから始めましょう。
Q. 対策をしていなかった場合、実際に罰せられることはありますか?
A. 労働安全衛生法第119条に基づく罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科される可能性があるとされています。加えて、対策を怠った状態で死傷事故が起きれば、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われるリスクもあります。罰則の有無にかかわらず、体制整備は今すぐ着手すべき経営課題です。
まとめ
職場の熱中症対策は、2025年6月の改正安衛則によって、罰則付きの義務になりました。報告体制の整備、対応手順の作成、周知の3点が最低ラインですが、それだけで人が守れるわけではありません。制度(ハード)と、日々の声かけ(ソフト)の両輪があって初めて、社員が倒れる前に気づける組織になります。
「ウチの作業は該当するのか」「何から手をつければいいか分からない」という状態に不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。
