最低賃金2026年審議スタート 姫路の特定社労士が解説する中小企業の3つの実務対応



「また最低賃金が上がるのか……」
そうため息をついている経営者、多いと思います。

6月26日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が2026年度の引き上げ額の審議を正式に開始しました。7月には目安額が答申され、秋には各都道府県の新しい最低賃金が発効します。

毎年「上がった、困った」で終わっている会社と、先手を打って対応できている会社。この差は、対応の速さではなく、発想の違いから生まれています。

今回は、最低賃金のこの10年間の推移、2026年度の審議状況、採用力・助成金との関係まで、姫路の特定社労士・泉正道が解説します。


目次

  1. この10年で最低賃金はどう変わったか
  2. 2026年度の審議状況と今後のスケジュール
  3. 最低賃金ギリギリの企業は「優秀な人材」を採れない
  4. 最低賃金引き上げと相性抜群「業務改善助成金」とは
  5. よくある質問
  6. まとめ:中小企業が今からやっておくべき3つのこと

この10年で最低賃金はどう変わったか

まずは事実を確認しましょう。2015年度から2025年度の全国加重平均の推移です。

  • 2015年度:798円
  • 2016年度:823円(+25円)
  • 2017年度:848円(+25円)
  • 2018年度:874円(+26円)
  • 2019年度:901円(+27円)
  • 2020年度:902円(+1円 ※コロナ影響)
  • 2021年度:930円(+28円)
  • 2022年度:961円(+31円)
  • 2023年度:1,004円(+43円)
  • 2024年度:1,055円(+51円)
  • 2025年度:1,121円(+66円)

2015年から2025年の10年間で、798円→1,121円。約40%増です。

特に2022年以降の引き上げ幅が急加速しているのが分かります。コロナ禍の2020年度こそ+1円に抑えられましたが、その後は毎年30〜66円という大幅な引き上げが続いています。

「10年前にこのペースで上がり続けるとは思わなかった」——そう言う経営者は多いです。ただ、今の流れを見れば、今後も引き上げは続くと考えておくのが現実的です。


2026年度の審議状況と今後のスケジュール

2026年6月26日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が今年度の引き上げ目安額の審議を正式に開始しました。

今後の予定スケジュール

  • 6月下旬〜7月:中央最低賃金審議会の審議(目安額の検討)
  • 7月下旬:引き上げ目安額の答申
  • 8月〜9月:各都道府県の地方最低賃金審議会で決定
  • 10月〜11月:新しい最低賃金が発効

今年の注目点は「1,500円目標の行方」です。石破政権が掲げた「2020年代中に全国平均1,500円」という目標は、政権交代の影響もあって不透明な状況が続いています。ただし、労働組合・弁護士会などからの引き上げ圧力は依然として強く、引き上げ傾向は続くとみておくべきでしょう。

また2026年度は、最低賃金の発効日の全国統一化も議題に上がっています。現在は都道府県によって発効日がバラバラなため、複数拠点を持つ中小企業の総務担当者はとくに注意が必要です。


最低賃金ギリギリの企業は「優秀な人材」を採れない

ここからは、採用の話に踏み込みます。

最低賃金ギリギリで求人を出している会社には、転職市場・就活市場を冷静に見ている人材は来ません。理由はシンプルで、「ここに来ても給与は上がらない」と判断するからです。

中途採用を例に挙げましょう。転職活動中の求職者は複数の求人を比較しています。同業他社より時給・月給が低ければ、よほど「ここで働きたい」という理由がない限り選ばれません。優秀な人ほど選択肢が多いので、わざわざ条件の悪い会社に来ることはないのです。

ただし「未経験者×育てる覚悟と仕組み」の組み合わせなら話は別

「スキルはこれからでいい、素直に育ってほしい」——そういう採用方針を持ち、育てる環境と仕組みが整っている会社には、未経験者採用という選択肢があります。

即戦力を大企業と同じ土俵で奪い合っても消耗するだけ。「未経験だけど伸びしろがある人」「キャリアチェンジを考えている人」をターゲットにして丁寧に育てることができれば、それは中小企業の立派な戦略になります。

ただし、これが成立するのは「育てる仕組みが実際にある」場合に限ります。OJTの手順、評価の基準、成長のステップが言語化されていることが前提です。「育てると言っておけばいい」では人は来ても定着しません。


最低賃金引き上げと相性抜群「業務改善助成金」とは

最低賃金の引き上げに合わせて活用したいのが、「業務改善助成金」です。

業務改善助成金の概要(2026年度版)

  • 対象:中小企業・小規模事業者
  • 条件:事業場内最低賃金を50円以上引き上げ+生産性向上のための設備投資を行う
  • 助成率:事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4
  • 助成上限:一般事業者で最大450万円、特例事業者で最大600万円
  • 2026年度申請受付開始:9月1日予定

簡単に言えば、「給料を上げて、それに合わせて設備やシステムに投資すれば、費用の一部を国が助成します」という制度です。

対象となる設備投資の例としては、POSレジ・予約システムの導入、パソコン・タブレットの購入、作業台・機械設備の入替えなど、業種を問わず幅広い投資が対象になります。

「どうせ最低賃金は上がる」と考えているなら、それに合わせて業務効率化の投資も行い、助成金を活用する——この順番で考えると、賃上げがコストではなく投資に変わります。申請は9月から。ただし、計画を立てて投資を決定するには今から動き始めることが重要です。


よくある質問

Q. 自社の賃金が最低賃金を下回っていないか確認する方法は?

A. 最低賃金は「時間額」で比較します。月給制の場合は「月給÷月の所定労働時間=時間換算額」で計算してください。比較に使うのは「基本給+毎月支払われる固定手当」で、通勤手当・賞与・時間外手当は含めません。各都道府県の最低賃金は厚生労働省のウェブサイトで確認できます。判断に迷う場合はお気軽に当社にご相談ください。

Q. 業務改善助成金の申請はいつからできますか?

A. 2026年度の申請受付は9月1日からの予定です。申請には「事業場内最低賃金を50円以上引き上げる計画」と「生産性向上のための設備投資の計画」が必要です。投資を先に行ってから申請するケースもあるため、今から計画を立てておくことをお勧めします。具体的な申請先は最寄りの都道府県労働局です。


まとめ:中小企業が今からやっておくべき3つのこと

今回の内容を整理します。

  • ①現状把握:自社の賃金が最低賃金に対してどの程度余裕があるか確認する
  • ②採用戦略の見直し:「最低賃金ギリギリで即戦力」は難しい。未経験者育成という選択肢も含めて採用ターゲットを再設計する
  • ③助成金の準備:業務改善助成金の申請に向けて、9月以降に行う設備投資の計画を今から立てる

最低賃金の引き上げは、今後も続きます。「また上がった」と毎年ため息をつくのか、それとも引き上げを前提に経営の仕組みを変えていくのか——その判断が、5年後・10年後の会社の姿を決めます。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。