2026年10月11日、巨人はクライマックスシリーズのファーストステージでDeNAに連敗して、シーズンを終えました。翌12日、日刊スポーツは、巨人が阿部慎之助前監督(47)に球団復帰を要請していると報じました。編成部門の役職が有力です。
阿部さんは今年5月25日、娘への暴行容疑で現行犯逮捕され、翌26日に監督の辞任を申し入れました。6月には不起訴処分となっています。その後は橋上秀樹監督代行がチームを率いてシーズン2位。復帰を求めるオンライン署名は、6月に13万筆を超えて球団へ提出されていました。
ところが、日刊スポーツの記事の読者アンケートでは、「球団復帰には慎重な判断が必要だと思う」が67%、「球団に戻ってきてほしい」は21%でした(749票。統計に基づく世論調査ではありません)。私は復帰そのものに反対ではありません。ただ、「なぜ今、この形なのか」が引っかかっています。
今日は、この「なぜ今、この形なのか」という引っかかりから、私の持論をお話しします。
目次
目次
- ニュースの概要
- 成績が悪くなかった巨人で、今、阿部さんを戻す必要はあるのか?
- 監督も管理職も、いきなり任されるより、まず別の場所で学びたい人が多い
- 後継者は、グループ会社ではなく他社で実績を上げてから戻す
- 休職や退職のあとに人を戻すときも、会社の都合だけで決めない
- 人を戻す・上げるときに、中小企業が決めておくこと
- よくある質問
ニュースの概要
各紙の報道によると、巨人の新監督は高橋由伸さんが最有力です。橋上監督代行は退任し、阿部さんは球団に戻る見込みだと報じられています。助っ人外国人も入れ替わりそうで、ウィットリー選手とハワード選手は退団へ、ダルベック選手とマタ選手には残留が要請されています。
署名を集めたファンの気持ちは分かります。応援している人に戻ってきてほしいと願うのは自然なことですし、並大抵の労力ではなかったはずです。ただ、私が読んだ記事のどこにも、阿部さん本人が何をしたいと考えているのかは書かれていませんでした。
監督も戦力も入れ替わる時期に、阿部さんがフロントにいれば、球団は心強いでしょう。球団の狙いは、おそらくここにあります。この復帰には、ファンの思いも球団の安心もあります。ですが、阿部さん自身が、この先の数年で何を学び、どんな監督に近づいていくのかという成長の視点がありません。ここが、私の違和感の中心です。
成績が悪くなかった巨人で、今、阿部さんを戻す必要はあるのか?
今シーズンの巨人は、監督が途中で交代するという前代未聞の事態の中で、2位に入りました。優勝を逃したのは143試合目です。橋上監督代行の采配も立派ですが、阿部さんが2軍監督時代から育てた若手が躍動したことは、阿部さんの仕事の成果だと思います。この点は、きちんと認めておきたいです。
そのうえで言うと、結果が出ているチームに、今すぐ人を戻す理由は何でしょうか。選手の立場で考えてみてください。来年の監督は誰なのか、前の監督は球団のどこにいるのか、自分はどう振る舞えばいいのか。選手がこうした疑問を抱えたまま来シーズンの準備をすれば、動揺する選手が出てもおかしくありません。
戻した結果、チームが良くなる保証もありません。短期的に成果が出るかどうかも分からないのです。それなのに、長い目で見た阿部さん本人の成長は、後回しにされているように私には見えます。
監督も管理職も、いきなり任されるより、まず別の場所で学びたい人が多い
そもそも、誰だって、いきなり重い役割を任されたいわけではありません。監督でも管理職でも、まず2軍や3軍といった現場で経験を積んだり、別の場所で勉強したりしてから、責任ある立場に就きたい人のほうが多いと私は思います。
阿部さんは捕手出身です。捕手は、谷繁元信さんや古田敦也さんのように、選手を続けながら監督になる例が目立ちます。チーム全体を見渡す役割なので、早くから組織の中心に置かれやすいからでしょう。ただ、中心に置かれ続けるほど、外の世界を知る機会は減っていきます。
巨人のことしか知らない阿部さんと、他の球団や他の世界も知っている阿部さんとでは、同じ人でも、まったく違う監督になるはずです。本人が何を望んでいるかは分かりません。そのうえで私は、いったん巨人から離れて勉強するほうが、阿部さんは伸びると考えています。
後継者は、グループ会社ではなく他社で実績を上げてから戻す
中小企業の後継者の場合も、私の考えは同じです。後継者を一度外に出すなら、グループ会社ではなく、完全に他社に出します。そして、年数ではなく実績を持ち帰らせます。
あなたの会社の後継者候補が、こんな状態だったらどう感じるでしょうか。
- 他社に5年いたが、目立った実績はない
- 戻ってきた初日から、「専務」の肩書きがつく
- 古参の社員は、何を評価されての専務なのか分からない
こういう会社は、まずうまくいきません。「他社に何年いたか」は実績ではなく、古参の社員が納得する理由にもならないからです。他社で実績を上げたなら、「帰ってこい」と言ってかまいません。実績を上げていないなら、戻ってきても一般社員からスタートしてもらいます。それが、本人のためにも、周りの社員のためにもなります。
休職や退職のあとに人を戻すときも、会社の都合だけで決めない
この考え方は、後継者だけの話ではありません。休職や退職で一度会社を離れた社員を戻すときも、同じ失敗が起きます。「人が足りないから、とりあえず戻ってきてほしい」と、会社の都合だけで決めてしまうのです。
あなたの会社では、戻ってきた社員に何を期待しているのか、本人に伝えているでしょうか。伝えていないと、戻された本人は、自分が何を期待されているのか分かりません。周りの社員は、なぜあの人が戻ったのかを聞かされていないので、なんとなく落ち着かないままです。
アルムナイ採用(退職した社員を再び採用すること)や出戻り社員の活用は、人手不足の中小企業にとって、有効な方法だと思います。ただ、短期の都合だけで進めると、せっかく戻ってきた人を伸ばせません。
人を戻す・上げるときに、中小企業が決めておくこと
では、中小企業は何を決めておけばいいのでしょうか。私は、制度(ハード)と関わり方(ソフト)の両方で考えます。
制度(ハード)で決めておくこと
ハードで決めておくのは、次の2つです。
- 戻す条件、上げる条件を紙に書く(どこで、何年、どんな実績を上げたら戻すのか)
- 戻したあとのポスト、役割、報酬を、事前に決めて本人に示す
条件が紙に書いてあれば、本人は何をがんばればいいのか分かりますし、周りの社員も「あの人が戻るのは、この条件を満たしたからだ」と納得できます。
関わり方(ソフト)で決めておくこと
ソフトで決めておくのは、次の2つです。
- 本人に、どうなりたいのか、何を学びたいのかを聞く(会社の都合を伝える前に、先に聞く)
- 周りの社員に、なぜ戻すのか、どんな役割を任せるのかを、社長自身の言葉で説明する
ハードの2つとソフトの2つ、この4つがそろえば、本人も周りの社員も迷わずに済みます。どちらか片方だけでは、うまくいきません。制度だけで本人の気持ちを置き去りにしても、対話だけで条件を曖昧にしても、人は伸びないからです。
よくある質問
Q1. 人手不足なので、辞めた社員にはすぐ戻ってきてほしいのですが、早く戻してはいけませんか?
A. 早く戻してもかまいません。ただ、戻る前に、本人に「戻ったら何を任せたいのか」を話してください。社長が「とにかく戻ってきてほしい」としか言っていないまま戻ると、周りの社員から見て、理由の分からない人事になってしまいます。戻る前の1回の面談で、役割と期待を言葉にしておくだけで、戻ったあとの落ち着き方が変わります。
Q2. 後継者を他社に出す余裕がない小さな会社は、どうすればいいですか?
A. 他社に出せなくても、「何を達成したら次のポストに上がるのか」という条件は、紙に書いてください。たとえば、「新規の取引先を2社開拓する」「1つの部署の離職者をゼロにする」といった条件です。条件を決めておけば、後継者は肩書きではなく実績で認められますし、古参の社員も納得しやすくなります。当事務所は全国オンラインで対応していますので、条件づくりをお手伝いできます。
まとめ
阿部慎之助さんの復帰が、ファンの署名と球団の都合で動いているように見えることに、私は違和感を覚えました。結果が出ているチームに、短期の事情で人を戻すのではなく、本人の成長のために、いったん外で学んでもらう道もあったのではないでしょうか。
後継者でも、出戻りの社員でも、考え方は同じです。戻す条件を決めて示すのがハード、本人の意思を聞き、周りに説明するのがソフトです。この両方が揃えば、人を戻す人事は、本人にも会社にも良い結果になります。
社長ご自身で、「うちは、人を戻したり上げたりするとき、本人の成長を考えて決めているか」と、問い続けてください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,100件超(2026年10月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。
