読売新聞オンラインの連載「依存症と向き合う」で、社会人1年目からスマホで競艇にのめり込み、手取り25万円の大半をつぎ込んで多重債務に陥った27歳男性の話が紹介されていました。
このニュースへの反応の多くは「自己責任だ」というものでしたが、姫路で中小企業の労務支援をしている社会保険労務士の立場から見ると、これは会社としても向き合うべき経営リスクだと感じます。
今回は、このニュースを題材に、中小企業が取り組める早期発見の体制づくりと、金融教育の意義についてお伝えします。
目次
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話題になったニュースの概要
記事に登場する男性は、大学卒業後、社会人1年目で競艇にのめり込みました。スマホがあればいつでもどこでも舟券を購入できるため、最初は休憩時間だけだったのが、やがて勤務時間中もこっそりスマホを操作するようになったといいます。
多い時は1日に50レース賭け、月の手取り25万円の大半をつぎ込み、消費者金融からも100万円以上を借り入れ。社会人2年目には生活が立ち行かなくなり、23歳で休職、回復施設に入所しました。
コロナ禍を経て、ギャンブルの主戦場は競馬場・競艇場からスマホへ移行しました。内閣官房のまとめでは、公営5競技のネット投票の割合は2024年度、各競技とも8〜9割を占め、コロナ禍前の2019年度から10ポイント以上増加。総売り上げは5競技で計約8.4兆円、2019年度から4割も伸びたといいます。オンライン化によって、誰もが「いつでもどこでも」アクセスできてしまう環境が、若年層の依存リスクを高めているという指摘もあります。
なぜ「自己責任」だけでは片付けられないのか
このニュースに対するネット上の反応の多くは「自己責任」というものでした。しかし、勤務時間中の私的なスマホ利用や、それに伴う多重債務は、会社にとっても他人事ではありません。
多重債務を抱えた従業員が、横領や情報漏洩といった不正行為に手を染めてしまうケースは、労務相談の現場でも実際に見られます。早期に気づき、対応できていれば防げた事態も少なくありません。
会社にできる2つの対策
1. 早期発見のための面談体制
遅刻や欠勤の増加、様子の変化など、日頃のサインに早く気づける関係性が重要です。月に一度、業務の進捗確認だけでなく「最近どう?」と聞ける時間を設けるだけでも、本人が「実は」と言い出せるきっかけになります。
面談を評価のための場としてだけ運用していると、社員は本音を話しにくくなります。評価とは切り離した、雑談に近い時間をあえて設けることが、早期発見につながる第一歩です。
2. 金融教育の実施
新入社員向けに、給与明細の見方やiDeCo・NISAといった資産形成の基礎、退職金の仕組みなどを教える研修は、決して難しい内容である必要はありません。
「金融リテラシーを高めると、投資のことばかり考えて仕事に集中できなくなるのでは」と心配する経営者もいますが、実際は逆の効果が期待できます。お金の知識がある社員ほど、自分の人生設計を考え、日々の仕事における時間の使い方や成果の意味を理解し、将来の資産形成についても、ギャンブルではなく地に足のついた方法で考えるようになる傾向があります。
研修だけでは意味がない、という核心
ここでもっとも重要なのは、研修という制度(ハード)を整えるだけでは不十分だという点です。
研修で「計画的にお金を使いましょう」「ハラスメントをやめましょう」と教えても、社長や幹部自身がそれを実践できていなければ、部下がそれを守るはずがありません。
研修はあくまで「きっかけ」であり、本体は、経営者・幹部・先輩社員が、日々の言動でそれを体現できているかどうかです。言葉よりも、日々の背中のほうが、はるかに説得力を持ちます。
架空の会社に置き換えて、よくある光景を整理してみます。
- 新入社員研修で「計画的にお金を使いましょう」と教える
- しかし、幹部が飲みの席で「ボーナスは全部競馬に使った」と自慢げに話す
- 上司が「あの新人、休憩中もずっとスマホを見ているな」と気づきながら、声をかけずに放置する
- 面談の場が形骸化しており、業務の進捗確認だけで終わっている
- 数ヶ月後、本人から「実は借金があって」と相談を受けたときには、すでに深刻な状態になっている
このように、研修という制度だけを整えても、日々の観察と対話が伴っていなければ、問題は見過ごされてしまいます。
よくある質問
Q. 従業員のプライベートな金銭問題に、会社がどこまで踏み込んでよいのでしょうか?
A. プライベートそのものへの介入は慎重であるべきですが、勤務時間中の私的なスマホ利用や、業務パフォーマンスへの影響、横領等の不正リスクは、会社が対応すべき労務管理の範囲内です。面談を通じて本人が相談しやすい関係性を築いておくことが、深刻化を防ぐ第一歩になります。
Q. 金融教育の研修は、外部に依頼すべきですか?それとも社内で行うべきですか?
A. どちらでも構いませんが、大切なのは研修の内容と、経営者・幹部の日々の言動が一致していることです。外部講師に依頼する場合でも、経営者自身が研修の場に同席し、自らの考えを共有することをおすすめします。
まとめ
スマホひとつで誰もがギャンブルにアクセスできる時代、これは個人の意志の弱さだけの問題ではなく、会社としてどう向き合うかが問われる経営リスクです。面談体制と金融教育を整えるだけでなく、経営者・幹部自身が日々の言動でそれを体現できているかを、あらためて見直してみませんか。
従業員の金融教育や面談体制づくりに不安を感じたら、ぜひ当社にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。
