2026年9月17日、積水ハウスが「男性育休白書2026」を発表しました。配偶者と小学生以下の子どもと暮らす、全国の20代〜50代の男女9,072人に、家事と育児の実態を聞いた調査です。朝日新聞がこの結果を「夫が育休取っても軽減されず」という見出しで報じ、Yahoo!ニュースには1,000件を超えるコメントが付きました。
見えない家事を負担に感じている女性は、夫が育休を取っていない家庭で74.8%、夫が育休を取った家庭で73.8%でした。夫が育休を取った家庭と取っていない家庭で、妻の負担感はたった1ポイントしか違わなかったのです!
私も一人息子がいますが、奥さんが出産した時は残業を一切せずに、当時5時半に会社を出て、5時35分ぐらいには家にいました(自宅が近かった)。奥さんの家事、育児を手伝ってきた「つもり」でしたし、今も家事の手伝いをやっている「つもり」なんですが、どうやら何の手伝いにもなっていないかもしれません(苦笑)
コメント欄は「夫に当事者意識がない」という声であふれていましたが、私が気になったのは、夫の当事者意識よりも、家事が妻の頭の中だけで回っていることでした。仕事を抱え込んだ上司の頭の中だけで職場が回っている状態と、まったく同じだからです。
今日はそれについて、批判をおそれず、私の持論をお話しします。
目次
目次
- 積水ハウス「男性育休白書2026」:夫が育休を取っても、妻の見えない家事の負担感はほぼ変わらない
- 見えない家事は書き出されていないから、夫は分担できない
- 仕事を抱え込む上司の部下は、手伝いたくても手伝えない
- 上司が部下に仕事を渡さない理由は、給料の仕組みとマネジメントへの自信のなさ
- やり方を決める権利を渡さずに主体性を求めても、部下は動かない
- 上司の仕事を見える化し、決める権利を部下に渡すために中小企業がやるべきこと
- よくある質問
積水ハウス「男性育休白書2026」:夫が育休を取っても、妻の見えない家事の負担感はほぼ変わらない
「見えない家事」とは、皿洗いやゴミ出しのように目に見える家事ではなく、名前のついていない細かな作業のことです。献立を考える、子どもの体調に気を配る、洗剤が切れる前に詰め替える。やっている本人以外は、やっていることにすら気づきにくい家事ばかりです。
白書では、項目ごとの男女差もはっきり出ていました。「園・学校・習い事のスケジュールを把握し続けている」と答えた人は、男性17.7%に対して女性56.5%。「提出物や準備物に抜け漏れがないか意識している」は、男性14.9%に対して女性55.9%で、どちらも女性のほうが3倍以上多い結果になっています。
もっと興味深いのは、夫婦の認識のズレです。家事に積極的に関わっていると答えた男性は79.3%いましたが、妻から見て夫が積極的に関わっていると答えたのは63.9%でした。白書を初めて出した2019年は、男性の自己評価が47.1%、妻からの評価が50.9%で、むしろ男性のほうが控えめでした。この7年で、夫の自己評価は32ポイントも伸びたのに、妻からの評価はたった13ポイントしか伸びていません。ズレは15ポイント以上に広がりました。
この数字を見て、夫を責めたくなる気持ちはよく分かります。冒頭でも書いたとおり、私も今は風呂掃除とゴミ捨てを担当している「つもり」ですが、妻から見た関与度が何点なのかは、怖くて聞けません(笑)。夫の側に甘えがあるのも事実でしょう。ただ、「夫がもっと気づけばいい」で話を終わらせても、この数字は来年も変わらないと私は考えています。
見えない家事は書き出されていないから、夫は分担できない
見えない家事が見えないのは、名前がついていないからです。そして名前がついていないのは、その家事が、やっている人の頭の中にしかないからです。来週の火曜は体操服が要る、木曜は歯医者の予約がある、牛乳はあと1本。これが妻の頭の中だけで回っている限り、夫からは見えません。見えないものは、手伝いようがありません。
毎日の家事を回すだけで手いっぱいの妻に、それを書き出す余裕がないのは当然です。説明するより自分でやったほうが早い、というのも本音でしょう。ただ、見えないままでは、夫はいつまでたっても気づけません。気づいてほしいなら、まず見えるようにする。これが私の考えです。
しかも、見えるようにする手間は、今ほとんどかかりません。生成AIに向かって「私は毎朝これをして、週末にはこれを確認して、月末にはこれを買い足して」と5分ほど口で話せば、家事の一覧表になって返ってきます。実際に、そうやって家事を書き出し、夫婦で分担をやり直している家庭もあります。一覧表にすれば、夫は妻がどれだけ抱えてきたかを初めて目にすることになります。見える化は、夫に家事を渡すためだけでなく、妻がこれまで背負ってきた量を正しく分かってもらうためにも必要です。
仕事を抱え込む上司の部下は、手伝いたくても手伝えない
この話を、そのまま職場に置き換えてみます。上司の言い分は「部下が仕事を引き受けてくれない」「自分から動いてくれない」です。ところが部下に話を聞くと、答えはまったく違います。「上司が何をやっているのか分からないんです。分からないから、手伝いようがないんですよ」。
上司の仕事は、上司の頭の中とパソコンの中にしかありません。どの取引先とどんな約束をしているのか、見積もりの単価をどうやって決めているのか、月末に何を確認しているのか。部下からは何ひとつ見えていません。仕事を見えないまま抱えて、部下に「気づけ」「動け」と言う。家事を頭の中だけで回しながら、夫に「気づいて」と言うのと、まったく同じ構造です。
私が関わっている会社にも、こういう上司はいます。本人は毎日遅くまで残って「自分ばかり忙しい」と感じていて、部下は定時に帰りながら「何か手伝えることはないかな」と思っています。お互いに不満を持っているのに、間に仕事の一覧表が1枚もありません。
上司が部下に仕事を渡さない理由は、給料の仕組みとマネジメントへの自信のなさ
とはいえ、上司の多くは、意地悪で仕事を渡さないわけではありません。渡さない理由は、たいてい次の2つです。
- 仕事を渡すと、自分の給料が減るから
- マネジメントに自信がないから
1つ目は、営業職に特に多い理由です。自分が担当している顧客の売上や単価で給料や賞与が決まる会社では、顧客を部下に渡せば、その分だけ自分の数字が減ります。会社は「部下を育てろ」「仕事を渡せ」と言いながら、渡した人の給料が下がる仕組みのままにしています。これでは、どれだけ真面目な上司でも仕事を渡しません。上司が悪いのではなく、評価制度がそうさせているのです。
2つ目は、もっと根が深い理由です。プレイヤーとしては優秀でも、部下の育て方を誰かに教わったことはなく、任せて失敗されたときにどう責任を取ればいいのかも分からない。だから「自分でやったほうが早い」と抱え続け、気づけば40代、50代になっても、社内で一番忙しいプレイヤーのままです。こういう上司は、中小企業には本当に多いと感じています。
抱え込めば抱え込むほど、会社にとってはその人がいないと回らない状態になります。本人は休むことも辞めることもできず、部下は育たず、上司が1週間入院しただけで取引先への対応が止まります。誰も得をしていないのに、この形はずっと続きます。
やり方を決める権利を渡さずに主体性を求めても、部下は動かない
家事の話に戻ります。女性と話していると、よくこう言われます。「夫の『家事を手伝うよ』という言い方に腹が立つんです。手伝うじゃなくて、自分の家事でしょう」。
気持ちは分かります。ただ、皿をどの棚に戻すのか、風呂掃除をどの洗剤で、どの順番で、いつやるのか、洗濯物をどうたたむのか。そのルールを全部妻が決めているのなら、夫は「手伝う」としか言いようがありません。自分で決められないことを、自分の仕事とは呼べないからです。
先ほどの風呂掃除も、実はやり方もタイミングもすでに決まっていて、私に決める権利はありません(笑)。それでいて「もっと主体的にやって」と言われたら、正直なところ、どうしていいか分かりません。
職場も同じです。「自分で考えて動いてほしい」と言う社長や上司が、部下がやり方を少し変えた途端に「なんで勝手に変えたの」と言う。これを2回やられた部下は、もう自分では考えなくなります。言われたとおりにやるほうが、叱られずに済むからです。部下から見れば、主体的に動けと言われながら、決める権利だけは上司が握ったままです。
「手伝う」という言葉の裏には、決める権利を渡されていない人の立場が、そのまま表れています。主体性を求めるなら、仕事と一緒に、やり方を決める権利も渡さなければなりません。
上司の仕事を見える化し、決める権利を部下に渡すために中小企業がやるべきこと
では、中小企業は何から手を付ければいいのか。私は、制度(ハード)と声かけ(ソフト)の両方で考えます。
制度(ハード)で整えること
最初にやってほしいのは、上司の仕事の書き出しです。上司本人が生成AIに話して、仕事を一覧表にします(やり方は、よくある質問のQ2で紹介します)。できた一覧表の1行ずつに、「部下に渡せる」「まだ渡せない」を付けていきます。
次に、渡す仕事ごとに、部下が自分で決めてよい範囲を紙に書きます。たとえば「値引きは3万円までなら部下の判断でよい」「作業の順番を変えるのは事後報告でよい」といった形です。範囲が書いてあれば、部下は上司の顔色をうかがわずに決められますし、上司も「勝手に変えた」と言わずに済みます。
もう1つ大事なのが評価です。個人の売上だけで評価するのではなく、部下に引き継いだ顧客の売上や、部下が一人で担当できるようになった業務の数も、上司の評価に入れてください。仕事を渡した人が損をする会社で、仕事を渡す人は出てきません。
声かけ(ソフト)で伝えること
仕事を渡すときは、上司が「任せた。やり方は変えていいから」と口に出して言ってください。紙に範囲が書いてあっても、上司のひと言がなければ、部下は本当に変えていいのか半信半疑のままです。
渡したあとも、部下が変えたやり方に、最初の1か月は口を出さないでください。気になるところがあれば、終わってから「なぜそうしたの?」と理由を聞く。理由を聞かれた部下は、次から自分で考えてから動くようになります。そして社長は、仕事を手放した上司を、みんなの前で認めてあげてください。「あの人が教えてくれたから、この仕事が回るようになった」と社長が言えば、抱え込んでいた上司の見られ方も変わります。
よくある質問
Q1. 仕事を部下に任せると、品質が落ちてお客様に迷惑がかかりませんか?
A. 最初は落ちます。だからこそ、渡す前に部下が決めてよい範囲を紙に書いておくのです。範囲の中の失敗なら、取り返しがつきます。品質が落ちるのが怖くて仕事を渡さない会社は、その上司が辞めた日に、品質がゼロになります。少し落ちる時期を、会社が計画して引き受けるかどうかの問題です。
Q2. 上司の業務の見える化は、何から始めればいいですか?
A. 上司本人が、生成AIに自分の1週間を話すところからです。ChatGPTなどに「今から私の1週間の仕事を話すので、毎日・毎週・毎月・年に数回に分けて一覧表にしてください」と頼み、月曜の朝から順番に話していきます。文章を書くのが苦手な上司ほど、書かせるより話させるほうが早く終わります。一覧表ができたら、部下にも見せて「ここは自分がやれます」と手を挙げてもらってください。上司が選んで渡すより、部下が自分で手を挙げた仕事のほうが、ずっと自分の仕事になります。姫路以外の地域の方も、オンラインで一緒に作るところまでお手伝いできます。
まとめ
夫が育休を取った家庭でも、妻の負担感はたった1ポイントしか違いませんでした。この結果を、私は夫の当事者意識だけの問題だとは思っていません。見えないものは手伝えませんし、決める権利がないことは「手伝う」としか言えないからです。
職場でも、まったく同じことが起きています。上司の仕事を見えるようにし、渡した上司が損をしない評価にする仕組み(ハード)と、「やり方は変えていい」と口に出して任せる関わり方(ソフト)。この両輪が揃ったとき、部下は初めて、渡された仕事を自分の仕事として動かし始めます。
社長自身が本気になって、「うちの上司の仕事は、部下から見えているか」「部下に、決める権利まで渡しているか」と問い続けてほしいのです。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年9月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。
