姫路の採用定着士が伝える、社員に「顔を出してほしい」と頼むときの一言

「出てくれる人がいなかったら、どうしようと思って」

採用ページを作る話をしていたときに、担当の方がぽつりとこぼしました。会社としてやると決まった。予算も付いた。あとは撮るだけ、という段階です。それなのに、その人の顔は晴れませんでした。社内に頭を下げて回るのは自分だからです。

この心配は、まったく杞憂ではありません。採用サイトの制作でつまずくのは、たいてい撮影技術でも予算でもなく、「社員が顔を出したがらない」という一点です。そして断られると、頼んだ本人が社内で気まずくなる。だから担当者は、頼む前から憂鬱になります。

結論から言うと、ここでつまずく会社とつまずかない会社の差は、撮影の腕でも予算でもありません。最初のひと声だけです。頼み方を変えると、同じ社員が同じ日に、あっさり首を縦に振ります。


目次

  1. 「会社のために協力してほしい」では、人は動かない
  2. 「あなたのためになる話です」から入ると、返事が変わる
  3. 社長が名指しで頼むと、なぜ断られないのか
  4. 「顔はちょっと」と言われて、話を終わらせないために
  5. よくある質問

「会社のために協力してほしい」では、人は動かない

多くの担当者は、こう切り出します。「今度、採用ページを作ることになって。会社のために協力してもらえないかな」。誠実な頼み方です。嘘もありません。それでも、断られます。

理由は簡単で、「会社のため」は、頼まれた側にとって自分の話ではないからです。顔がネットに残る、知り合いに見られる、家族に何か言われるかもしれない。デメリットは全部自分に降ってくるのに、メリットは会社のものになる。この計算をされたら、断るのが自然です。

実際に断られるときの言葉は、たいてい柔らかいものです。「私なんかより、もっと適任の人がいますよ」「写真、昔から苦手で」。どれも本音ではありません。正面から嫌だとは言いにくいので、角の立たない理由を探しているだけです。ここで「そこをなんとか」と押すと、関係のほうが先に傷みます。

しかも厄介なのは、この頼み方だと断るほうに何も残らないことです。「会社のため」なら、忙しいので、と言えば済みます。頼むほうは食い下がれず、頼まれたほうも後ろめたさを持たない。そこで話が終わります。


「あなたのためになる話です」から入ると、返事が変わる

私が伝えているのは、頼む理由を相手の側に置き直すことです。言い方でいえば、「これは、あなたのためになる話です」から入る。

きれいごとに聞こえるかもしれませんが、これは事実です。採用ページを作る目的は、自社に合う人に来てもらうことです。合わない人が入ってきて、教えている途中で辞めていく。そのしわ寄せは、経営者のところには届きません。全部、現場で受け止めることになります。何度も同じことを教え直し、その人が抜けた穴を埋めるのは、今そこにいる社員です。

だから「いい人に来てもらうために、あなたの言葉が要る」というのは、社交辞令ではありません。採用は、今いる社員の働きやすさに直結しています。そこを説明せずに「会社のため」とだけ言うから、伝わらないのです。

ある会社では、休日に半日だけ時間をもらい、謝礼を払って撮影に協力してもらいました。出てくれた本人は最初こそ渋っていましたが、完成した原稿を読んで「思ったより悪くないですね」と言ったそうです。自分の仕事が言葉になって外に出る。これは、本人が思っているよりずっと大きな出来事です。

日々の業務は、本人にとっては当たり前の繰り返しです。それが文章になり、写真になって並んだとき、初めて「自分はこういう仕事をしていたのか」と外から眺めることになる。よくやっていると褒められるより、自分の仕事が言葉になって残るほうが、本人にはずっと残ります。頼むときにこの見通しまで伝えられると、返事は変わってきます。


社長が名指しで頼むと、なぜ断られないのか

ここまで説明しても渋られることはあります。そのとき、いちばん効く手はひとつしかありません。社長が直接、名指しで頼むことです。

「誰でもいいから協力してほしい」ではなく、「あなたに会社の顔になってほしい」と伝える。これを社長から言われて、断る社員はそう多くありません。頼まれ方が変わると、意味が変わるからです。人手として数えられたのか、名指しで選ばれたのか。同じ依頼でも、受け取るものがまったく違います。

担当者から頼むのと社長から頼むのとでは、届き方が変わります。担当者の依頼は業務連絡に見えますが、社長の依頼は評価として届く。「見てくれていたんだ」と思った社員は、その一言を何年も覚えています。手当を一度増やすより、ずっと長く残ります。

もっと確実なのは、社長が最初に自分で出てしまうことです。トップが先に顔を出していれば、後に続く社員のハードルは一気に下がります。逆に、社長は一度も映らないのに社員にだけ頼むと、その温度差は必ず伝わります。「自分は出ないのに」と口に出す人はいませんが、思う人はいます。

そしてもうひとつ、あまり語られない効き目があります。出演した社員の家族が、それを見て喜ぶのです。子どもが親の働く姿を見る。配偶者が、普段どんな顔で仕事をしているかを知る。採用のために作ったページが、結果として今いる社員の誇りになる。私はこれを何度も見てきました。採用の道具のつもりが、定着に効いてしまうのです。


「顔はちょっと」と言われて、話を終わらせないために

とはいえ、全員が首を縦に振ることはありません。断る人は必ずいます。そこを想定しないまま声をかけると、追い詰められるのは頼んだ担当者のほうです。

だから私は、頼む前に代替案を用意しておくことを勧めています。顔を出さない形でも、伝わるものは作れるからです。後ろ姿で撮る。手元の作業だけを映す。声だけで語ってもらう。名前を出さずに「入社5年目・製造」と肩書きだけにする。選択肢を先に示しておけば、依頼は「イエスかノーか」の二択ではなく、「どの形なら出られるか」の相談になります。

この一手間は、担当者を守るためでもあります。断られた回数がそのまま自分の失点に見えると、人は途中で頼むのをやめてしまう。逃げ道があれば、頼み続けられます。

なお、撮影を業務として行うのか、休日に協力してもらうのかは、先に整理しておいてください。所定労働時間の中で行うなら通常の勤務です。休日に出てきてもらうなら、その時間を労働時間として扱うのか、いくら払うのか、それは給与なのかお礼なのか。ここを先に決めておいてください。曖昧なまま「ちょっと協力して」と頼むと、あとで気まずいことになります。気持ちよく協力してもらうための段取りも、立派な労務管理です。

あわせて決めておきたいのが、その人が辞めたあとの扱いです。採用ページに載せた社員が退職したとき、写真をいつまで載せておくのか。掲載の範囲と期間について、ひとことでも書面で合意しておけば、後から揉めることはまずありません。撮る前なら5分で終わる確認です。それを辞めたあとに切り出すと、途端に角が立ちます。出てもらう側の安心にもつながるので、依頼の場でセットにして伝えてしまうのが一番です。

それから、断られたあとをどうするか。ここを考えていない会社が多いのですが、断った社員のほうも、実は少し気にしています。「悪いことをしたかな」と思っているところに、担当者が気まずそうに避けはじめると、関係はそこから固まってしまう。断られたら、その場で「わかりました、ありがとうございます」と軽く終わらせて、あとは普段どおりに接する。それだけで十分です。そして半年後、別の企画のときにもう一度声をかける。一度断った人が、二度目に出てくれることは珍しくありません。


よくある質問

Q. 採用動画は、どのくらいの長さと品質で作ればいいですか?

A. 3分程度あれば十分です。作り込む必要もありません。スマートフォンで15分ほど回して、そこから使えるところを切り出せば形になります。むしろ、きれいに作りすぎたものは応募者に見抜かれます。求職者が見ているのは、映像の出来ではありません。そこで働いている人が、どんな顔で喋っているか。それだけです。照明も台本もない、少しぎこちないくらいのほうが伝わることは多いです。

Q. 採用サイトや動画に出てもらう社員は、どう選べばいいですか?

A. 基準はひとつで、これから採りたい人にいちばん近い社員です。話が上手いかどうかは、あとで構いません。若手を採りたいのにベテランばかりが出ていると、応募者は自分を重ねられません。逆に、経験者を採りたいなら中堅に語ってもらう。誰に届けたいかが決まっていないと、この選択もできません。出す人を選ぶ作業は、実は「どんな人に来てほしいのか」を決める作業でもあります。


まとめ

採用サイトを作ると決めたあと、いちばん時間を取られるのは制作ではありません。社内に頼んで回る時間です。そしてここでつまずくと、企画そのものが止まります。

「会社のために協力してほしい」ではなく、「あなたのためになる」と伝える。それでも渋られるなら、社長が名指しで頼む。断られたときの逃げ道も、先に用意しておく。頼み方を変えるだけで、動く人は確実に増えます。

仕組みを整えるだけでも、声をかけるだけでも、人は動きません。撮影の段取りや謝礼のルールを決めること(ハード)と、なぜあなたに頼むのかを言葉にすること(ソフト)。この両輪が噛み合ったときに、初めて社員は自分から前に出てくれます。

自社の採用ページを思い浮かべてみてください。社員の顔と言葉は、そこに載っているでしょうか。載っていないとしたら、止まっているのは撮影ではないはずです。誰に、どう頼むかが決まっていないだけ、ということがほとんどです。そこを整理するところから、姫路の中小企業の現場を見てきた採用定着士としてご一緒します。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年9月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。