19歳社員が遺書に書いた「死んどけ」という言葉に、私は強い怒りを感じています|姫路の特定社労士が伝える、従業員を捨て駒のように扱う会社の支援を引き受けない理由

涙が出るほど悔しく、腹が立つ出来事です。ニュースを見ながら、私は怒りで全身が震え、涙が出ました。

2026年9月9日、徳島県上勝町で、四国電力送配電・徳島支社の松岡一輝さん(19歳)が、高さ約93メートルの送電鉄塔の点検を終えて降りる途中、約40メートルの高さから転落して亡くなりました。入社1年目でした。

仕事用のかばんに入っていたノートの間から、三つ折りにされた遺書が見つかりました。事故の翌日に徳島県警からご遺族に開示され、その後ご遺族が公開したその紙には、先輩社員の名前を挙げて「『仕事できん』『頭悪い』『死んどけ』とか言われてた」と書かれていました。

亡くなったご本人と、ご遺族のことを思うと、言葉が見つかりません。19歳の息子さんを突然失ったうえに、こんな紙を警察から受け取ることになったご両親の気持ちは、想像することしかできません。

今日はそれについて、批判をおそれず、私の持論をお話しします。


目次

  1. 事案の経緯
  2. 遺書の内容が事実であれば、投げかけられた言葉は指導ではなく人格否定
  3. 会社が暴言を把握して放置していたのなら、会社の責任も重い
  4. ハラスメントの隠蔽と、従業員への口止めの依頼は引き受けない
  5. 私のやりかた。重たい労働トラブルでは、「従業員側弁護士の視点」で従業員の主張を予想する
  6. 私の雇い主は経営者であり、経営者の味方ではあるが、経営者のイエスマンになる事はない
  7. よくある質問

事案の経緯

報道によると、松岡さんは9日の午前、落雷の影響を確認する点検のため、同僚と2人で鉄塔の頂上付近まで登り、作業を終えて降りる途中に転落しました。発見されたとき、転落を防ぐための安全器具は、外れた状態だったと報じられています。

翌10日、徳島県警から遺書のコピーがご遺族に開示されました。そこには、複数の先輩社員の実名とともに冒頭の言葉が書かれ、別の社員については「自分の望み通りの答えがでるまで問答してくるのもしんどかった」とも記されていました。未成年で飲めないのに飲み会で食事を強要され、「心身ともに死にそうだった」という記述も報じられています。

そのあとには、ご両親への詫びの言葉が続きます。「こんな親不孝者で本当にごめん」「心が弱くてごめん」。そして最後は、「俺みたいな人を増やさない為にがんばって欲しい」という言葉で結ばれていました。

ご遺族は9月12日、会社にパワハラの有無と転落原因の調査、第三者委員会の設置を求める要求書を提出しました。9月18日、会社は第三者委員会の設置を正式に表明し、常務執行役員が記者会見で「客観的かつ徹底的な原因究明を行う」と述べています。一方、同じ日の朝にご遺族へ渡された中間報告は紙1枚で、ご両親は「知りたかった情報は何もなかった。到底納得できない」と話しています。調査には数か月かかる見込みです。

つまり現時点では、パワハラがあったかどうかは会社も第三者委員会も認定していません。警察の捜査も続いています。ですから、ここから先は、遺書に書かれている内容が事実だとすれば、という前提で書きます。


遺書の内容が事実であれば、投げかけられた言葉は指導ではなく人格否定

遺書に書かれているとおりの言葉が投げかけられていたのだとすれば、そこに指導の要素は1つもありません。「仕事できん」「頭悪い」「死んどけ」のどれにも、どうすればできるようになるのかも、何が危なかったのかも入っていないからです。高所での作業は、一つの油断が命に直結します。だからこそ厳しい言葉が飛ぶ現場があることも知っていますが、それは「次はここを確認しろ」という中身があって初めて指導になります。

未成年で酒が飲めない新入社員が、飲み会の席で食事を強要されたという記述にも、同じことを感じました。これが事実であれば、教育でも、かわいがりでもありません。立場が下の人間に、逆らえないと分かったうえでやったということです。

私には息子がいます。もし息子が就職した先で同じことをされて、誰にも言えないまま、親に「弱くてごめん」と書き残していたらと考えると、はらわたが煮えくり返る思いです。社会保険労務士である前に、私は人間です。これを「よくある話だ」と流すことは、どうしてもできません。

事実関係は、これから第三者委員会と警察が明らかにしていくことになります。その結果が出たら、私は改めてこの件について書くつもりです。


会社が暴言を把握して放置していたのなら、会社の責任も重い

私が怒りを感じているのは、暴言を浴びせた人に対してだけではありません。もし会社が、新入社員に人格を否定する言葉が投げられていたことを把握していながら、注意も指導もしていなかったのなら、あるいは、そういう物言いが当たり前だという空気がその職場に広がっていたのなら、私は会社そのものに対しても、同じだけの怒りを感じます。

大企業だから、管理体制が整っているから、という話は一切関係ありません。これはどの会社にも言えることですが、立派な規程を作っても、相談窓口を設置しても、現場で人格を否定された社員が誰にも言えずにいるのなら、その仕組みは機能していません。

これは中小企業でも同じです。というより、中小企業のほうが起きやすいと私は考えています。社員数が少なければ、特定の先輩と新人が毎日2人きりで現場に出ることもあります。逃げ場がなく、相談相手もいない。社長の耳に届くころには、本人はもう辞めているか、心を壊しているかのどちらかです。御社の現場で、入社1年目の社員が先輩と2人きりになる時間は、1日にどれくらいありますか。


ハラスメントの隠蔽と、従業員への口止めの依頼は引き受けない

ハラスメントの事実を隠してほしい、従業員を黙らせてほしい。この依頼を、私は絶対に引き受けません。

私は企業側の社会保険労務士です。会社が存続しなければ、そこで働く人の生活も守れないと考えているからです。それでも、従業員を理不尽に扱う会社、人を捨て駒のように使う会社を支援する気持ちは、まったくありません。悪意をもってハラスメントをしている。指摘しても反省がない。事実を隠そうとする。そういう会社だとはっきりした場合は、こちらから顧問契約の解約を申し出ます。実際に、これまで何度かそうしてきました。

仕事が減るのは、正直に言えば痛いです。それでも、自分の家族が同じことをされたら絶対に許せないと思うことを、お金をもらって手伝うことはできません。この考えに合わない方には、私に依頼していただかないほうがお互いのためだと思っています。


私のやりかた。重たい労働トラブルでは、「従業員側弁護士の視点」で従業員の主張を予想する

社長から「従業員とこういうトラブルになっている」というご相談を受けたとき、私がまずやることは決まっています。従業員側の弁護士になったつもりで、この会社をどこまで追及できるかを考えることです。

相手の立場に立たなければ、対抗する手段を考えられないからです。雇用契約書に何が書いてあるか、労働時間の記録はどう残っているか、注意や指導の記録はあるか、同僚は何を見ていたか。ここを洗い出しておかないと、社長がどれだけ「こちらが正しい」と思っていても、第三者の前ではその主張が立たないからです。そのうえで、社長に「私が従業員側の弁護士なら、ここを突いてきますよ」とお伝えします。そして「そのうえで、どうされますか」と聞きます。

耳の痛い話になることも多いです。それでも、会社に都合のいい見立てだけを並べて安心してもらっても、いざ第三者が入ってきたときに何も守れません。先に痛い話をしておくことが、結果として会社を守ることになります。


私の雇い主は経営者であり、経営者の味方ではあるが、経営者のイエスマンになる事はない

先日、ある中小企業の経営者から、こう聞かれました。「泉さんに顧問をお願いしたとして、経営者と従業員で意見が真っ二つに割れたとき、どちらの味方になりますか」。

私はこうお答えしました。基本的には社長の味方です。ただし、社長が理不尽なことを言っている、明らかに違法だと分かっていてやっている。そのときは、ダメですとはっきり申し上げます。そのうえで、落としどころをどうするかを一緒に考えます。私は役所の人間ではないので、社長を裁くためにいるわけではありません。

従業員の側について社長の悪口を言うようなことは、絶対にしません。かといって、社長の言うことを100%そのまま実行するイエスマンにもなりません。それは最初にお伝えしています。

私が考える企業の支援は、従業員がのびのびと自主的に働いて、成果を出している状態をつくることです。それが結局、会社の業績につながると信じています。人を怒鳴って動かす職場から、その状態が生まれることはありません。


よくある質問

Q1. うちにも厳しい言い方をする先輩がいます。指導とハラスメントは、どこで分かれますか?

A. 言葉の中に、次にどうすればいいかが入っているかどうかで考えてみてください。「何回言ったら分かるんだ」には何も入っていませんが、「この確認を飛ばすと、落下につながる。次は声に出して確認して」には入っています。人格を否定する言葉に、指導の要素は一つもありません。厳しさの問題ではなく、中身があるかどうかの問題です。

Q2. 社員から相談が上がってこないのですが、うちは大丈夫だと考えていいですか?

A. 相談がないことと、問題がないことは別です。言えば自分の立場が悪くなると思われていれば、相談は一件も上がってきません。特に入社1年目の社員は、何が普通で何がおかしいのかの判断もつきません。社長や直属の上司ではない人が、定期的に一対一で話を聞く場をつくってください。社外の窓口を使う方法もあります。


まとめ

19歳の新入社員が、鉄塔の点検を終えた直後に転落して亡くなりました。仕事用のかばんには、「俺みたいな人を増やさない為にがんばって欲しい」と書かれた紙が残されていました。何があったのかは、これから第三者委員会と警察が明らかにしていきます。それでも、同じように人を雇っている者として、この重さは受け止めたいと思います。

会社がやるべきことは、決まっています。やってはいけない言動を具体的に決めて紙に書き、相談を受けたら誰がどう動くかまで決めておくこと(ハード)。そして、社長自身が「人格を否定する言い方は、うちでは許さない」と口に出して言い続けること(ソフト)。規程を配っただけでは、現場の空気は変わりません。御社では、この2つが揃っているでしょうか。

最後に、もう一度書いておきます。もし自分の家族が同じ目に遭ったら、私は妥協せず、人生を懸けてでもその会社と向き合います。それくらいの怒りを感じています。だからこそ、顧問先には耳の痛いことも言い続けます。

社長自身が本気になって、「うちの現場で、いま何が言われているのか」と問い続けてほしいのです。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年9月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

中卒→ニート→売れない漫画家→特定社労士。国立高専を半年で中退し、20代前半は全国誌でギャグ漫画を2年間連載するも、鳴かず飛ばずのまま終わる。定職に就かない時期を経て、勤め先では悪質な嫌がらせにも遭う。「仕事ができない人間」として過ごした日々と、あの職場の記憶。その両方が社労士を志すきっかけとなる。2014年に社会保険労務士登録、2019年7月に独立。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に、常識を教えてあげたところ、解約された過去あり。それでも伝え続けるのが私の役目だと思っている。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走と「耳が痛い話」ができる社労士でありたい。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、クライアントのPCを直接触り、その日のうちに仕組みを作る「実装型伴走」を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。